2025.8.22

瀬戸内国際芸術祭とあわせて行くべき8つの美術館

「瀬戸内国際芸術祭2025」の開催に際して、香川・岡山・兵庫3県の8つの美術館が連携した「瀬戸芸美術館連携」プロジェクトが開催中だ。

直島新美術館 Photo by GION
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 4月18日から開催されている「瀬戸内国際芸術祭2025」(春会期:4月18日〜5月25日、夏会期:8月1日〜8月31日、秋会期:10月3日〜11月9日)。その広域連携事業として今年初めて実施されているのが、「瀬戸芸美術館連携」プロジェクトだ。これは、香川・岡山・兵庫3県の8つの美術館で日本人の現代アーティストによる作品を中心とした展覧会を行うというもの。

 参加美術館は、香川県4館 (香川県立ミュージアム、高松市美術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 MIMOCA、直島新美術館)、岡山県2館 (岡山県立美術館、大原美術館)、兵庫県2館 (兵庫県立美術館、横尾忠則現代美術館)。8館共通の割引チケット(5400円)もあるため、瀬戸内国際芸術祭とあわせて楽しむのがおすすめだ。ここではそのラインナップをすべて紹介したい。

香川県立ミュージアム:特別展「小沢剛の讃岐七不思議」(8月9日~10月13日)

 香川県立ミュージアムは、2008年に香川県文化会館、瀬戸内海歴史民俗資料館、香川県歴史博物館が再編され設立したもの。北に瀬戸内海、東に屋島を望む風光明媚な文化・歴史ゾーンに立地し、歴史博物館と美術館の機能をあわせ持つ総合的なミュージアムとして、展示、普及、調査研究など幅広い活動を行っている。ここで行われているのが、小沢剛による特別展「小沢剛の讃岐七不思議」だ。

 小沢剛は、純粋芸術とそれ以外のものの境界に関心を寄せ、歴史や社会にユーモアと批評精神を交えて様々な問いを投げかける作品で国内外で広く評価されている。本展では、香川県立ミュージアムが収蔵する香川の歴史・美術・民俗に関する膨大な資料や情報などから独自の視点でモノ・コトに着目し、それらから触発され生み出した作品や実物の資料を組み合わせた展示を構想する。子供と大人、過去と現在など異なる視点が交差する作品世界は、モノ作りの技術や収蔵・陳列について、あるいは世界の見方や自然科学、死生観などについての考察と讃岐の歴史文化との新たな出会いを誘発する。

住所:香川県高松市番町4-1-10
開館時間:9:00〜17:00(ただし、8月と10月の土、8月10日、11日、10月12日、13日〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、8月12日、9月16日(ただし、8月11日、9月15日、10月13日は開館)
料金:一般 1200円 / 高校生以下・県内在住の65歳以上・障害者手帳お持ちの方・特定医療費(指定難病)受給者証・小児慢性特定疾病医療費受給者証等の提示者とその介護者は無料

高松市美術館:特別展「石田尚志 絵と窓の間」(8月8日~10月5日)

高松市美術館

 高松市美術館は1949年に栗林公園内に地方公立美術館として全国に先駆けて誕生。その後、瀬戸大橋が開通した88年に現在の場所へ移転新築し、中心商店街に近接した都市型美術館として開館した。「戦後日本の現代美術」「20世紀以降の世界の美術(版画)」「香川の美術(漆芸・金工)」を軸として系統的に作品を収集しており、なかでも現代美術のコレクションは、質・量ともに日本屈指だ。

石田尚志 絵と窓の間 2018 ©Ishida_Takashi.

 同館で始まった特別展「石田尚志 絵と窓の間」は、実写のコマ撮りアニメの手法などを用いて、映像表現を追求してきた画家/映像作家の石田尚志にとって、2015年以来となる大規模な個展。新たな展開を見せている2016年以降の近作・最新作を中心に、レトロスペクティブ上映やパフォーマンスなども交えて、石田尚志の仕事を概観し将来を展望する。モニターやインスタレーション形式での映像上映に加え、10 代から最新作の「絵画」を再考することで、独自の作品世界を紹介。美術館内だけでなく、館外でも作品展示を行う予定で、その作品世界をより深く体感できる展覧会となる。神奈川県立近代美術館、アーツ前橋に続く巡回展。

住所:香川県高松市紺屋町10番地4
開館時間:9:30〜17:00(金土〜19:00、8月1日〜8月31日の金土〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、8月12日、9月16日(ただし、8月11日、9月15日は開館)
料金:一般 1200円 / 大学生 600円 / 高校生以下・障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳所持者は無料

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館:特別展「大竹伸朗展 網膜」(8月1日~11月24日)

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

 谷口吉生建築である丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA/ミモカ)は、1991年、全国でも類を見ない駅前美術館として、丸亀市ゆかりの画家・猪熊弦一郎の全面的な協力のもと開館。これまで様々な独自の現代美術展を開催してきた。ここで行われているのが、大竹伸朗の個展「網膜」だ。

展示風景より、大竹伸朗《網膜屋/記憶濾過小屋》(2014)

 1988年に宇和島市に活動の拠点を移して以来、35年以上に亘ってこの地で制作し、国内外で幾多の個展や作品発表を続けてきた大竹伸朗。本展は、 2013年に同館で開催された「大竹伸朗展 ニューニュー」の続編とでも呼ぶべきものだ。活動の初期段階から取り組んできた「網膜」を通奏低音とし、シリーズの新作・未公開作を中心に、さらに「網膜」に接続する多様な作品群を谷口吉生建築の展示空間を生かして展開されている。なお、猪熊弦一郎の作品も同時に楽しめる。

住所:香川県丸亀市浜町80-1
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、9月16日、10月14日、11月4日(ただし、8月11日、9月15日、10月13日、11月3日、11月24日は開館)
料金:一般 1500円 / 大学生 1000円 / 高校生以下または18歳未満・丸亀市内に在住の65歳以上・各種障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料

直島新美術館:開館記念展示―原点から未来へ(5月31日~)

直島新美術館外観
Photo by GION

 直島新美術館は、より多様な価値観や表現を提示すべく、日本を含むアジア地域の、時代・社会・場所・自然との関わりなど私たちの生き方についての示唆に富む現代アート作品を中心に収集・展示する美術館として今年開館を迎えた。ベネッセアートサイト直島の安藤建築としては10作目だ。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、蔡國強《ヘッド・オン》(2006)
撮影=編集部

 開館年の記念展示は、この場所にあわせて構想された新作を含む12名(組)のアーティストによる作品群で構成されている。参加アーティストは、会田誠、マルタ・アティエンサ、蔡國強、Chim↑Pom from Smappa!Group、ヘリ・ドノ、インディゲリラ、村上隆、N・S・ハルシャ、サニタス・プラディッタスニー、下道基行 + ジェフリー・リム、ソ・ドホ、パナパン・ヨドマニー。

住所:⾹川県⾹川郡直島町 3299-73 
開館時間:10:00〜16:30 ※⼊館は閉館の30分前まで
休館日:⽉(祝⽇の場合開館、翌⽇休館) ※不定休あり
料金:[オンライン]1500円 / [窓⼝購⼊]1700円 / 15歳以下無料

岡山県立美術館:特別展「平子雄一展」(9月16日~11月9日)

岡山県立美術館

 1988年開館の岡山県立美術館は、雪舟を筆頭とする水墨画家、伝統工芸品の備前焼など、岡山県が育んだ作家や文化に焦点を当て、「岡山ゆかり」をキーワードに優れた美術作品を収集。「岡山の美術展」では毎月展示替えを行いながらコレクションを紹介している。

 今回行われるのは、岡山出身であり、岡山県新進美術家育成「I氏賞」の第13回大賞受賞作家でもある平子雄一の大規模個展だ。本展では展示室のみならず、同館の建築を活かして屋内広場や中庭なども使用したスケールの大きな展示空間に、植物と人間の共存関係のなかで浮上する曖昧さや疑問をテーマに、絵画や彫刻、インスタレーションなど多様な表現方法で作り上げた作品を展開する。遊具なども設置し、世代を超えて楽しめる祝祭的な展覧会とすると同時に、対話型鑑賞などを取り入れて鑑賞体験の充実を図る。

住所:岡山市北区天神町8-48
開館時間:9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、休日の場合はその翌日)
料金:未定

大原美術館:森村泰昌「ノスタルジア、何処へ」-美術・文学・音楽を出会わせる-(10月7日~11月9日)

大原美術館

 大原美術館は、倉敷市を基盤に幅広く活躍した事業家の大原孫三郎が、画家・児島虎次郎を記念して1930年に設立した。日本最初の西洋美術中心の私立美術館だ。

森村泰昌 M式「マグリットの男」

 同館では2002年より、有隣荘での現代作家展、児島虎次郎のアトリエでの滞在制作事業「ARKO」、倉敷を取材した作品を制作・公開するAM倉敷の3事業を展開してきた。この秋は、有隣荘を主に森村泰昌の個展を実施。有隣荘との共振のみならず、大原美術館の歴史や所蔵品をテーマとした新作による構成、批評的観点も備えたものになる。

住所:岡山県倉敷市中央1-1-15
開館時間:美術館ウェブサイトを参照
料金:美術館ウェブサイトを参照

兵庫県立美術館:特別展「藤田嗣治×国吉康雄展」(6月14日~8月17日)、コレクション展 ベスト・オブ・ベスト2025(4月24日〜12月14日)、美術の中のかたち 中谷ミチコ展(9月5日~12月14日)、Ando Gallery(通年開館)

 兵庫県立美術館は阪神・淡路大震災からの「文化の復興」のシンボルとして、2002年、神戸東部新都心(HAT神戸)に開館。世界的建築家・安藤忠雄が設計を手がけ、延床面積約2万7500平方メートルという西日本最大級の規模を誇る。美術作品の展示だけでなく、様々な芸術の融合の場として設計された建物は、単純明快な構成の中での複雑多様な空間体験を実現している。

 同館では8月17日まで、特別展として藤田嗣治×国吉康雄の二人展が開催中。同時代におけるそれぞれのパリとニューヨークでの活動、その後の戦前、戦後の活動を対比させることにより、20世紀日本が送り出したふたりの「日系画家」の近似性と距離感を示すものとなっている。

展示風景より、左から藤田嗣治《タピスリーの裸婦》(1923)京都国立近代美術館蔵、国吉康雄《幸福の島》(1924)東京都現代美術館蔵
撮影=編集部

 また若手作家を紹介するアニュアル企画「Channel 16」では、身近な時事ニュースを取り上げた版画作品で知られる松元悠(1993年生まれ)、秋には当館が30年以上継続している「手でふれて鑑賞する」企画枠で、彫刻家・中谷ミチコ(1981年生まれ)を取り上げる。コレクション展示室では当館の半世紀を超える収集歴を生かした「ベスト・オブ・ベスト2025」を開催。2019年に増設された安藤設計によるAndo Galleryでは、安藤の模型や図面などの展示をアップデートする。

住所:神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1 [HAT神戸内]
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌平日)
料金:一般 2000円 / 大学生 1200円 / 高校生以下 無料

横尾忠則現代美術館横尾忠則の肉体派宣言展(5月24日~8月24日)、復活!横尾忠則の髑髏まつり(9月13日~12月28日)

横尾忠則現代美術館

 兵庫県西脇市出身で国際的にも評価される美術家・横尾忠則の作品に特化した横尾忠則現代美術館。同館では横尾に関する多彩なテーマの企画展示を数多く開催してきた。また、膨大に有する横尾の関連資料を保管するアーカイブルームも備えている。

 肉体派宣言展は「身体性」について再考し、横尾の多彩な人体表現に光を当てる試み。身体の赴くままに描くことを是とする横尾が、人体に向けた意識を、人体を描いた作品を通して探る。いっぽう「髑髏まつり」は、2020年にコロナ禍で開催直前に中止となった「横尾忠則の髑髏まつり」を再構成するもの。骸骨や首吊りのロープのような暗示的な記号から、空襲で赤く染まった空や亡くなった友人の写真などの自身の記憶に由来するモチーフまで、様々な「死」の形が鮮やかに力強く示される。

住所:神戸市灘区原田通3-8-30
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌平日)
料金:一般 800円 / 大学生 600円 / 70歳以上 400円 / 高校生以下は無料 / 障がい

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