金澤韻連載「中国現代美術館のいま」:“その後”──松美術館と中間美術館
2023年末までウェブ版「美術手帖」で続いた、インディペンデントキュレーター・金澤韻による連載「中国現代美術館のいま」。コロナ禍終盤から状況が変化し、経済の低迷によって大きな影響を与えられた中国の現代アートシーン。番外編として、北京の松美術館と中間美術館をお届けする。

2022年から23年にかけて連載した「中国現代美術館のいま」は、私が2016年から7年間を過ごした中国での経験がもとになっている。定点観測することになった当時の拠点・上海には、個性的な現代美術館がいくつも立ち並んでいた。公立美術館の多い日本の状況に比べ、コレクターや企業の館がほとんどである当地の美術館の生態系は私にはとにかく新鮮だったし、近未来の世界の潮流を展望するうえでも示唆に満ちていた。「こんなところがすごい」「こんな課題は日本には存在しない」「ここは見習えないだろうか」──そうした素朴な驚きや、差異についての思考を日本の読者へ届けたいという情熱が、私を執筆へと駆り立てた。2023年3月に帰国した後も取材を断続的に続け、最終的に12本の記事を同年末までに書いた。
しかしそのあいだ、とくにコロナ禍終盤から状況は変化していった。経済が低迷していることについては、大企業の経営破綻といった報道のみならず、周囲の人々の状況や、街なかの広告の減少など肌で感じるものがあった。民間企業やコレクターの美術館が多い中国のアートシーンは、この影響を強く受けざるを得なかったはずだ。
例えば連載第8回で取り上げたOCATは記事掲載後まもなく閉館した。親会社の業績悪化によるものと伝えられている。連載第1回で「優等生」として紹介したUCCAも、最近、スタッフへの給与未払いのニュースが流れた(*1)。ほかにも複数の美術館が閉館や無期限休館に追い込まれている(*2)。もちろん順調に活動している館もあるが、2010年代から続く美術館の活況がひとつの転換点を迎えたことは否めないように思う。
最近、北京で2つの美術館を訪れる機会があり、「中国現代美術館のいま」の“その後”を書かせてもらうことになった。ただ、美術館に到着したときにも、キュレーターたちの話を聞いているあいだも、以前のように差異について語ろうとする気持ちは湧いてこなかった。2つの展覧会が共感できる内容であったことも強く関係しているが、同じ時代を生き、異なる場所で奮闘する仲間として、彼らを記述したいと思ったのだった。
松美術館とリ・ビンユアン個展「Becoming Li Binyuan」
今回の旅の主な目的は、これまで二度協働してきたパフォーマンス・アーティスト、リ・ビンユアン(厉槟源)の個展を見ることだった。会場は北京郊外にある松美術館。以前も訪れたのだが、名前のとおり美しい松の木々が、199本、美術館の敷地に佇んでいる。

松美術館は、2017年にある企業経営者でありコレクターでもある人物によって創設され、その後22年に丁沢華氏を館長に迎えて再スタートを切った。鉄鋼会社の子息で15歳からコレクションを始めたという彼は、当時23歳という若さによって中国最年少館長の記録を塗り替えている。