2026.3.3

特別展「花・flower・華 2026」(山種美術館)開幕レポート。横山大観、川端龍子らが描いた花で一足早い「お花見」を

東京・恵比寿の山種美術館で、春の訪れを祝うような華やかな特別展「花・flower・華 2026」が幕を開けた。

文・撮影=橋爪勇介(編集部)

展示風景より、大迫力の荒木十畝《四季花鳥》(1917、山種美術館蔵)
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 東京・恵比寿の山種美術館で、春の訪れを祝うような華やかな特別展「花・flower・華 2026」が幕を開けた。会期は5月10日まで。

 古来、日本の絵師たちは移ろう季節のなかで咲き誇る花々に、無常の美や祈り、そして祝祭の意を込めてきた。本展では、同館が誇る珠玉のコレクションを中心に、近現代の日本画壇を代表する巨匠たちが描いた「花」の表現が一堂に並ぶ。

展示風景より、手前は川端龍子《花の袖》(1936)

 展示の冒頭部分で鑑賞者を迎えるのは横山大観の《春朝》(1939、山種美術館蔵)だ。本作は山種美術館の創設者・山崎種二と深い親交のあった大観が、日本の精神性を象徴するかのように描き出した名品。本展の監修にも携わる美術史家・山下裕二が「大和心そのものを描いたような作品」と評するように、朝日に輝く山桜が画面を覆う姿は気品を放つ。

展示風景より、手前が横山大観の《春朝》(1939、山種美術館蔵)。奥に見えるのは稗田一穂《惜春》(1980、個人蔵)

 また、本展で見逃せないのが、古典への敬意と独自の解釈が融合した作品群だ。 菱田春草の《桜下美人図》(1894)は、菱川師宣による《見返り美人図》にならいつつ、春草らしい静謐な色彩で再構築された一幅。美人の傍らに描かれた、犬のような愛らしい存在が画面に柔らかな体温を添えている。

展示風景より、菱田春草《桜下美人図》(1894)

 いっぽう、圧倒的なスケールで迫ってくるのが川端龍子の《八ツ橋》(1945、山種美術館蔵)だ。六曲一双の大画面は、琳派の巨匠・尾形光琳による《燕子花図》や《八橋図屏風》を強く意識して制作されたもの。光琳の装飾美を継承しながらも、龍子特有のダイナミックな筆致と構成が、伝統をアップデートしようとする熱量を伝える。

展示室でも一際目を引く川端龍子《八ツ橋》(1945、山種美術館蔵)

 細部への執拗なまでのこだわりが光るのは、田能村直入の《百花》(1869、山種美術館蔵)だ。清朝の画巻を参照したという本作には、100種にも及ぶ四季の草花が、まるで植物図鑑のような緻密さで描き込まれている。個々の花の凄まじいまでの写実性と、画面全体が放つ装飾的な華やかさ。その双方がせめぎ合う空間は、季節の枠を超えた「花」という存在の極致を提示している。

展示風景より、田能村直入《百花》(1869、山種美術館蔵)の部分

 さらに、荒木十畝の《四季花鳥》(1917)では、画面いっぱいに配された四季の花々が鑑賞者を包み込む。作品の前に立つと、あたかもその豊かな色彩のなかに引き込まれるような感覚に陥るはずだ。

展示風景より、荒木十畝《四季花鳥》(1917、山種美術館蔵)

 このほか、千住博や重政周平といった現代の画家による作品も並ぶ本展。時代を超えて愛される「花」というモチーフを通じて、日本画の奥深い魅力を再発見できることだろう。瑞々しい感性が息づく名画の数々を、ぜひ会場で体感してほしい。

展示風景より、左から重政周平《素心蝋梅》(2023)、林功《月の音》(1975)