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2026.2.27

「トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで」(三菱一号館美術館)開幕レポート。黄昏からたどる風景版画の軌跡

東京・丸の内にある三菱一号館美術館で「トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで」が開幕した。会期は5月24日まで。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景
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 東京・丸の内にある三菱一号館美術館で、「トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで」が開幕した。会期は5月24日まで。担当は同館上席学芸員の野口玲一。

 本展は、最後の浮世絵師のひとりと呼ばれる小林清親(1847〜1915)から、明治末期に浮世絵復興を目指した新版画を手がけた吉田博(1876〜1950)、伊東深水(1898〜1972)、川瀬巴水(1883〜1957)らの作品を通じて、江戸時代末期から昭和初期までの風景版画の流れをたどるもの。アメリカ建国250周年となる今年、スミソニアン国立アジア美術館から里帰りした、ミュラー・コレクション選りすぐりの浮世絵・新版画・写真約130点と三菱一号館美術館の所蔵品から構成されている。

 本展は大きく2部構成となっている。第1部「小林清親と浮世絵」では、清親の画業を紐解く前に、明治期の文明開化のなかで制作された浮世絵「開化絵」が紹介される。庶民の生活にも影響を与えた、急速な西洋化の様子が作品から読み取れる。鮮やかな色彩で描かれた、新しい文化を楽しむ人々の姿からは、変化を前向きに捉えようとする姿勢が感じられる。

第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景

 しかしこの文明開化によって、新しい印刷方法やメディア、写真技術が流入し、浮世絵が徐々に衰退したことも事実だ。そんな時代に、夜明けや夕暮れ、闇、雨や雪景色の光に注目し、陰翳のなかの光の繊細な変化を描いたのが清親だ。その作品は「光線画」と呼ばれ、光と陰影のコントラストを強調して描く点が特徴だ。描かれているのは夕暮れと夜にまたがる黄昏時が多い。本展タイトルの「トワイライト」とは、このように清親が好んで描いた情景である「黄昏(トワイライト)」を意味しているが、同時に、徐々に衰退し黄昏(たそがれ)ていく、明治以降の浮世絵が置かれていた状況も意味する。

第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景
第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景
第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景

 当時、清親の作品は、従来の浮世絵とは一線を画す新しさがあると高く評価された。特定の画派には属さなかったため、それらの技法をどのように身につけたかは定かではないが、日本に入ってきたばかりの写真というメディアから影響を受けていることは、ほぼ間違いがないそうだ。担当学芸員の野口は、写真からは、その明暗や陰影による立体的な描写を学ぶばかりでなく、そこに内在していた、失われゆく文化を哀惜する視線も受け取っていたと述べている(*)。会場では、清親の作品とともに、当時撮影された写真も紹介されており、双方の影響関係を比較しながら鑑賞することができる。

 なお本章では、清親の影響を受けた2名の絵師、井上安治(1864〜1889)と小倉柳村(活動期1880〜81)の作品も紹介されている。

第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景
第1部「小林清親と浮世絵」の展示風景

*──『トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで』公式図録、p32より

 第2部では、新版画の立役者、版元の渡邊庄三郎(1885〜1962)と庄三郎のもとに集まった画家たちの作品が紹介される。日露戦争(1904〜05)を機に、浮世絵は完全に衰退の一途をたどり、写真にその役割を取って代わられてしまった。質の悪い複製や贋作が出回っていた状況を憂い、良質な新しい時代の版画を再興しようと考えたのが庄三郎だった。庄三郎は、従来の浮世絵と一線を画す表現を行った清親を「新版画」の先駆者と捉え、外国人画家、日本画家、洋画家などと協働して「新版画」の活動を展開した。

 会場では5名の絵師が紹介されている。最初に、外国人画家であるチャールズ・ウィリアム・バートレット(1860〜1940)の作品が展示されている。構図には浮世絵の影響が見られるが、水彩画のような明るい色調をはじめ、新たな表現を浮世絵と融合させようとする意向が感じられる。

 高橋松亭(1871〜1945)は、「新版画」の前身となる「新作版画」の誕生に大きく貢献した人物。「新作版画」は海外需要に合わせ輸出用につくられたもので、「新版画」よりもサイズは小さい。そんな松亭が初めて「新版画」に取り組んだ「都南八景之内」シリーズも紹介されている。

 美人画で有名な伊東深水も、新版画を代表する絵師のひとりだ。会場に展示されている「近江八景」シリーズは、のちに新版画の代表的作家として人気を博す川瀬巴水が、新版画に携わるきっかけとなった作品群でもある。

 洋画家として知られる吉田博は、その描写力をかわれて新版画の制作を依頼された。3度の渡米を経て、庄三郎のもとを離れ、私家版の新版画制作にも挑戦している。会場では、同じモチーフでありながら、庄三郎のもとでつくった作品と私家版の作品が比較できるようになっている。

 最後に、新版画を代表する絵師・川瀬巴水が紹介される。深水の「近江八景」シリーズに感銘を受けた巴水は、那須塩原の風景を題材にした塩原三部作を制作。これが高く評価され、次々と新版画を手がけた。本展では、日本中の名所を旅しながら制作した「旅みやげ第一集」シリーズ、東京の風景を取り上げた「東京十二題」シリーズも紹介されている。いずれも巴水が現地に足を運び見つけた一場面が題材となっており、等身大の目線で切り取られた景色からは、当時の様子が生き生きと伝わってくる。

川瀬 巴水《塩原しほがま》 1918 スミソニアン国立アジア美術館 
National Museum of Asian Art, Smithsonian Institution, Robert O. Muller Collection 版元=渡邊木版美術画舗
川瀬 巴水《東京十二題 深川上の橋》 1920 スミソニアン国立アジア美術館 National Museum of Asian Art, Smithsonian Institution, Robert O. Muller Collection 版元=渡邊木版美術画舗

 本展の最後に紹介されているのは、巴水の「三菱深川別邸の図」シリーズだ。モチーフとなった「深川親睦園(現在の清澄庭園)」は、三菱財閥を創設した岩崎彌太郎(1835〜85)が1880年に開園し、三菱社員の慰安や迎賓館として利用されたものだ。その後庭園が整備され別邸が設けられた本施設を、巴水が全8図のシリーズとして描いている。三菱が創設した本館を舞台とする展覧会の締めくくりにふさわしい作品と言えるだろう。 

川瀬 巴水《三菱深川別邸の図 洋館より庭園を望む》 1920 スミソニアン国立アジア美術館 National Museum of Asian Art, Smithsonian Institution, Robert O. Muller Collection 版元=渡邊木版美術画舗

 新版画に魅せられたミュラーが築いたコレクションの重厚さを感じながら、小林清親から新版画までの風景版画の流れを知ることのできる本展。2つの意味の「トワイライト」を意識しながら、作品と対峙してみてほしい。