官能と反抗のあいだで。ブルジョワ、ヘス、アダムスの作品が集う「アブストラクト・エロティック」展がロンドンで開催中
20世紀半ばのアメリカで、彫刻の新しい表現を追求した3人の女性アーティスト、ルイーズ・ブルジョワ、エヴァ・ヘス、アリス・アダムス。彼女たちが1960年代に制作した作品を改めて見つめる展覧会「アブストラクト・エロティック」がロンドンのコートールド美術館で開催中だ。その様子をレポートする。

1960年代のアメリカに登場した「アブストラクト・エロティック」アート
「アブストラクト・エロティック(抽象的なエロティック)」とは、1960年代のアメリカで影響力を持った美術評論家ルーシー・リパードによって付けられた名称だ。当時は型破りだったグラスファイバーやラテックス、ゴム、石膏などの素材を用いて、人間の身体の一部を思わせるようなフォルムで生々しくも官能的、さらには抽象、モダニズム、シュルレアリスムとは一線を画した挑戦的な芸術作品を指す。
1966年にリパードはニューヨークのフィッシュバッハ・ギャラリーで、アブストラクト・エロチックの作品をつくる現代美術作家8人による「エキセントリック・アブストラクション」というグループ展をキュレートする。ルイーズ・ブルジョワ、エヴァ・ヘス、アリス・アダムスもここに参加していた。3人はとくに親しく交流する仲間ではなかったというが、それまでのアートの形態や秩序、既成概念に挑戦し、新たな表現を模索して創造するという共通点があった。また、当時の女性アーティストたちはギャラリーで作品を展示する機会になかなか恵まれず、名声を手に入れることも困難だったという。のちにリパードは「振り返ってみれば、当時の私は『フェミニズム・アート』を追い求めていたのだと思います」という言葉を残している。