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2025.2.27

「加藤泉×千總:絵と着物」開幕レポート。京友禅の老舗と現代美術の融合で着物文化をアップデート

京友禅着物の老舗・千總と、現代美術家・加藤泉が作品を共同制作。それらを展覧する「加藤泉×千總:絵と着物」が、京都・三条烏丸の千總ギャラリーで始まった。会期は9月2日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、手前から《Untitled(ミミズク Horned Owl - Blue)》、《Untitled(ゼンマイ Fern Shoot - Ocher)》(ともに2024)
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着物文化への危機意識

 京友禅着物の老舗・千總(ちそう)と、現代美術家・加藤泉。両者が出会い、見事な作品が生み出された。

展示風景より、手前から《Untitled(ゼンマイ Fern Shoot - Black)》、《Untitled(ミミズク Horned Owl - Orange)》、《Untitled》(すべて2024)

 千總は1555年、京都・烏丸三条で創業。2025年に470周年を迎えた京友禅の老舗中の老舗だ。室町時代に法⾐装束商としてスタートした千總は「伝統とは、守ることでなく創ること」という代々の教えのもと、着物の新たな美しさや⽂化の提案を続けてきた。かつて明治時代には京都の絵師たちと協業し、進取の気性に富んだ京友禅のデザインを打ち出し、近年はモンブランやグローブトロッター、サントリーなど国内外でコラボレーションも積極的に展開。外部のクリエーションと出会うことで、時代に即した表現を続けてきた。

 千總代表取締役社長・礒本延は、昨今の着物をめぐる状況に関して、「着物文化は苦しい立場に追いやられている。着物に対して目を向けていただく機会が非常に少ない」と語る。そうしたなか、伝統や技術、美意識を継承し、着物を再解釈するために選んだパートナーが、国際的に活躍するアーティスト・加藤泉だった。

加藤泉

5年をかけて職人とともに制作

 1969年島根県⽣まれの加藤は、98年頃より本格的なキャリアをスタートし、⼦供が描くようなシンプルで記号的な顔の形に始まって、現在まで「⼈型(ひとがた)」を⼿がかりに制作を続けている。絵画作品に加え、⽊、ソフトビニール、布、⽯、鋳造など、様々な素材による⽴体作品も発表している加藤だが、着物への挑戦は今回が初めてだという。

 京都・三条烏丸の千總ギャラリーの「加藤泉×千總:絵と着物」(〜9月2日)では、両者によるコラボレーションで生み出された作品が一堂に並ぶ。

展示風景より

 展示の主役となるのは、構想から5年をかけて完成された、着物型の作品8点(反物2点を含む)だ。着物は「ゼンマイ」と「ミミズク」の2柄。いずれも「人型」モチーフが描かれており、ところどころに刺繍が施されている。

 これらは加藤によるスケッチをもとに、糸目友禅や描き友禅、絞り染め、刺繍、仕立てまで、伝統的な工程を経て制作されており、京都在住の専門職人たち20名以上のチームワークによって生み出された。

展示風景より、手前から《Untitled(ミミズク Horned Owl - Blue)》、《Untitled(ゼンマイ Fern Shoot - Ocher)》(ともに2024)

 制作は千總本社内にある工房のほか、京都府内にあるそれぞれの専門工房で実施。加藤自ら何度も京都を訪れ、「人型」モチーフは自ら筆をとり、職人たちと肩を並べながら伝統的な友禅の技法によって描いたという。

 着物生地の染色は初めてだったという加藤だが、千總の上質な絹は細かい表現も可能で筆が運びやすく、とても描きやすい支持体だったと振り返る。

 ⻑い歴史を誇る千總においても、友禅職⼈以外の⼿によって着物⽣地に染⾊が加えられるのは極めて珍しいことだ。

展示風景より、《Untitled(ミミズク Horned Owl - Green)》(2024)の部分

絵と着物に共通するもの

 会場に並ぶのは着物だけではない。その制作プロセスがわかる図案や型紙、色見本、配色伝票、そして特殊な道具類が展示。ふだん着物に親しみのない人にとっても、着物の構造を理解する助けとなるだろう。

展示風景より

 加藤は今回のプロジェクトについて、「ずっと残っている文化は様々なことがやり尽くされているので、新鮮なものをつくるしかない。それは絵も着物も共通している。そこが一致していたからこそ、この仕事がてきた」としつつ、「着物を着ることもないし知識もないなかで、やりながらいろんなことを教わった。一生に一度できるかどうかのいい経験ができた」と語っている。

 「伝統とは、守ることでなく創ること」という千總の教えを体現するような今回のコラボレーション。ぜひその繊細な表現を実物で目撃してほしい。

展示風景より
展示風景より