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2024.10.3

「松谷武判」(東京オペラシティ アートギャラリー)開幕レポート。過去最大規模の回顧展に見る創造の全貌

具体美術協会での活動をはじめ、60年以上にわたって独自の表現を追求してきたアーティスト・松谷武判(1937〜)。その創造の全貌を200点以上の作品で紹介する過去最大規模の回顧展が東京オペラシティ アートギャラリーで始まった。会期は12月17日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 1960年代に「具体美術協会」(具体)の第2世代として名を馳せた現代美術家・松谷武判(1937〜)。その過去最大規模の回顧展が東京オペラシティ アートギャラリーで始まった。会期は12月17日まで。

展示風景より

 松谷は1937年大阪生まれ。14歳で結核にかかり、22歳までの8年間を闘病生活に費やした。この期間に日本画を学び、63年には具体美術協会に加入。松谷は当時の新素材であるビニール系接着剤を用いてレリーフ状の作品を制作し、注目を集めた。その後66年に渡仏し、パリを拠点に版画制作に取り組み始め、ボンドと鉛筆の黒鉛を組み合わせた独自の作品スタイルを確立。さらに、インスタレーションやパフォーマンスの分野でも独自の表現を展開し、87歳を迎えたいまもなお旺盛な創作活動を続けている。

 2017年に第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展のメイン企画「Viva Arte Viva」に参加。また19年にはパリのポンピドゥー・センターで回顧展を開催。現在は世界的なメガギャラリーである「HAUSER & WIRTH(ハウザー&ワース)」が松谷を取り扱っており、国際的な再評価の機運が高まっている。

内覧会にてパフォーマンスを披露した松谷

 本展は、松谷の半世紀以上にわたる制作活動の全貌を紹介する国内初の包括的な展覧会であり、各時期の代表作を含む総数200点以上の作品が展示。これまで発表されていなかった希少な作品や未発表のスケッチブックから最新作まで、松谷の創作活動の軌跡をたどるものとなっている。

 第1章では、松谷が具体美術協会で飛躍する前の作品が展示。14歳で結核にかかり、22歳まで8年にわたる闘病を経験した松谷は、この間日本画を学んだ。その成果とも言える岩絵具を使った平面がここには並ぶ。

1章展示風景より

 第2章で紹介されるのは、具体時期の初期作品だ。63年、松谷はグタイピナコテカで新素材となるビニール系接着剤(ボンド)を駆使した作品をまとめて発表した。ボンドにストローによって息を吹き込むことで、官能性や生命性を持つフォルムが生み出されている。細胞を思わせる有機的なモチーフが強い存在感を示す。

第2章展示風景より
第2章展示風景より、《作品 63-9》(1963)
第2章展示風景より、左から《白い円》(1966)、《作品66-2》(1966)

 1966年にパリへ移った松谷は版画工房「アトリエ 17」で学び、幾何学的で有機的なフォルムや鮮やかな色彩を特徴とするハードエッジの表現を確立していった。第3章ではその過程を見ることができる。

第3章展示風景より
第3章展示風景より

 第4章では、1970年代後半に松谷が紙と鉛筆を使い始めた新たな挑戦が取り上げられる。黒のストロークによる新境地の開拓だ。

第4章展示風景より

 グラファイトのドローイングは拡大し、第5章では幅10メートルに及ぶ《流れ-6》(1982)などの作品に結実する。ホワイトスピリット(揮発性油)でグラファイトを流す表現が用いられ、以後も松谷の表現において重要な手法となった。

第5章展示風景より、手前が《一の流れーP-7;暗示-11》(1978)
第5章展示風景より、右が《流れ-6》(1982)

 また、ボンドを用いた有機的な造形も改めて取り組んだ松谷は、グラファイトの黒を重ねることで新たな境地を拓いていった。14メートルもの綿布を素材に取り込んだ《流れ-大谷-93》(1993)は本展でも大きな存在感を放っている。

展示風景より、《流れ-大谷-93》(1993)
第5章展示風景より

 第6章は、近年の松谷の自由で大胆な制作に迫るもの。特定の手法に縛られることなく、日々の感覚に触発されながら作品を生み出し続けるいま現在の松谷の姿をここから見出せるだろう。

第6章展示風景より、《エッフェル塔》(1973/2007)
第6章展示風景より、《円-緑》(2014)

 なお、4階のギャラリー3では、未公開のスケッチブックや制作日誌、ドローイングが集結。具体に参加する前の作品や具体時代のコンセプトドローイング、そしてイメージの断片が描かれたスケッチブックなど、松谷が時期ごとにどのようや関心を抱いていたのかが浮かび上がってくる。

ギャラリー3の展示風景より
ギャラリー3の展示風景より

 87歳のいまもパリを拠点に精力的に活動を続け、見る者に新たな視点をもたらす松谷。本展は、美術史に残る多様な表現活動を総覧し、創作プロセスや思考の流れもたどることができる絶好の機会となっている。

内覧会のパフォーマンスで制作された作品