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2024.9.11

「花鳥風月―水の情景・月の風景」(皇居三の丸尚蔵館)開幕レポート。水と月を技巧で見せる名品群

皇居東御苑内にある皇居三の丸尚蔵館で、水や月を表現した皇室伝来の収蔵品を紹介する「花鳥風月―水の情景・月の風景」が開幕した。会期は10月20日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、左から上村松園《雪月花》(1937、昭和12年)、橋本関雪《暮韻》(1934、昭和9年)
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 皇居東御苑内にある皇居三の丸尚蔵館で、雨などの水の景色や、月をあらわした風景などの作品を、皇室伝来の収蔵品のなかから紹介する「花鳥風月―水の情景・月の風景」が開幕した。会期は10月20日まで。

「水のかがやき、月のきらめき—工芸品」展示風景より

 美しい自然をあらわす「花鳥風月」のなかでも、水や月にまつわる景色を表した収蔵品を紹介する本展。展覧会は大きくふたつの章に分けられており、ひとつめの章は「水のかがやき、月のきらめき—工芸品」と題され、江戸時代から大正時代にかけての、漆工や金工などの工芸品を紹介している。

「水のかがやき、月のきらめき—工芸品」展示風景より

 本章では中国のハつの景勝地「瀟湘八景」になぞらえて琵琶湖南岸の景色を選んだ「近江八景」を表した《近江八景蒔絵棚》(18世紀、江戸時代)や、同じく近江の石山寺を題材とした硯箱、川之邊一朝《石山寺蒔絵文台》(1899、明治32年)など、蒔絵の名品が並ぶ。

展示風景より、右が《近江八景蒔絵棚》(18世紀、江戸時代)

 《金烏玉兎図花瓶》(1915、大正4年)は三重・四日市の萬古焼の花瓶で、月の象徴てまある玉兎と、太陽の象徴である三本足の金烏があしらわれた迫力ある構図が魅力だ。濤川惣助《七宝墨画月夜深林図額》(1899、明治32年)は水墨画のように見えるが、水墨画の技法を七宝で忠実に再現するという技巧を感じられる逸品だ。

展示風景より、《金烏玉兎図花瓶》(1915、大正4年)
展示風景より、右が濤川惣助《七宝墨画月夜深林図額》(1899、明治32年)

 ふたつめの章は「水と月、四季のうつろい—絵画と書跡」と題して、月や雨の姿を絵画や詩歌で表した作品が並ぶ。

 上村松園《雪月花》(1937、昭和12年)は春の桜、秋の月、冬の雪を愛でる平安の宮中を雅に描いたもの。また、国宝の伊藤若冲《動植綵絵 梅香皓月図》(18世紀、江戸時代)は若冲が10年以上をかけて制作した《動植綵絵》の一幅で、満月に照らされる早春の梅花を緻密に描いたものだ。

展示風景より、左から上村松園《雪月花》(1937、昭和12年)、橋本関雪《暮韻》(1934、昭和9年)

 また、雨上がりの虹を、雨具をつけた漁師と対比しつつ描いた川合玉堂《雨後》(1924、大正13年)や、秋の終わりを感じさせる枯れた茄子とともに、じゃれる夕暮れ時の狐を表した西村五雲の代表作《秋茄子》(1932、昭和7年)など、巧みな瞬間の表現を堪能できる作品も並ぶ。

展示風景より、左から西村五雲《秋茄子》(1932、昭和7年)、川合玉堂《雨後》(1924、大正13年)

 書にも注目したい。近衛家煕《近江八景和歌》(17〜18世紀、江戸時代)は近江八景について詠まれた和歌を色とりどりの料紙に四季や花鳥風月を表現しながら書写したもの。また、伝源俊頼《安宅切本和漢朗詠集》(12世紀、平安時代)も料紙の美しさが際立っている。

展示風景より、近衛家煕《近江八景和歌》(17〜18世紀、江戸時代)
展示風景より、伝源俊頼《安宅切本和漢朗詠集》(12世紀、平安時代)

 古くから愛されてきた雨雪や月といったモチーフを、多彩な技法で表現した名品がそろった展覧会だ。