2026.4.24

未来への実験場「TAKANAWA GATEWAY CITY」。「FUTURE GATE TRAIN」で巡る東京が積み重ねてきた文化とその先

2026年3月28日にグランドオープンを迎えた「TAKANAWA GATEWAY CITY」。この街の本格始動を記念し、特別な列車「FUTURE GATE TRAIN」が運行された。浮世絵師・歌川広重の案内により、江戸の茶室から最新のファッション、世界に誇るマンガ文化まで、車窓に映る都市文化の地層を紐解きながら、終着点・TAKANAWA GATEWAY CITYへと向かう。江戸の精神が100年後の未来へと接続された、約1時間の実験的な列車旅をレポートする。

文=編集部 撮影=小澤塁

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 TAKANAWA GATEWAY CITYは3月28日、東京の新たな玄関口としてグランドオープンを迎えた。ここは約150年前、日本初の鉄道が海のうえを走り抜けたイノベーションの地であり、かつては日本の発展を支えた車両基地が広がっていた場所だ。JR東日本グループが構想着手から20年という歳月をかけて進めてきたこのプロジェクトは、たんなる大規模開発の域を超え、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」として、地球規模のさまざまな社会課題の解決と、新たなビジネスや文化を生み出し続ける街を目指している。

車両に貼られた「FUTURE GATE TRAIN」のオリジナルステッカー

 このグランドオープンを記念し、3月30日に大崎から高輪ゲートウェイまで山手線を約1周するように運行されたのが、プレミアムツアー列車「FUTURE GATE TRAIN」だ。この列車は、山手線が100年以上にわたって見守り、つないできた都市文化の断片を紐解きながら、高輪という拠点が紡ぎ出す未来への予感を1日で体験する特別な旅の舞台となった。車窓に映る東京の重層的な歴史を車内DJや音声ドラマとともに読み解き、過去の記憶と未来の可能性を循環させる「文化のインフラ」としてとらえる試みだ。本稿ではこの実験的な1時間の列車旅の記録をレポートする。

歌川広重と山手線を旅する

 列車は大崎駅から出発すると同時に「FUTURE GATE TRAIN」の車内を特別な空間へと変えるのは、列車をまるごと放送局に見立てたライブ感溢れるラジオ番組。パーソナリティを務めるのは、放送作家・脚本家として多岐にわたる文化事業を手がける小山薫堂と、フリーアナウンサーの宇賀なつみだ。二人の軽快な掛け合いが、山手線の車窓を物語へと変えていく。

車内のDJを務めた宇賀なつみと小山薫堂
《東都名所高輪廿六夜待遊興之図》がデザインされた記念乗車券

 乗客に配られた特別な切符の裏面には、江戸の浮世絵師・歌川広重が描いた《東都名所高輪廿六夜待遊興之図》がデザインされている。この絵は、かつて高輪の浜辺に人々が集い、真夜中の細い三日月を待ちながら飲食や芸を楽しんだ江戸の「フェス」を描いたものだ。車内ではラジオに加えて、広重自身が「ゲスト車掌」として声の出演を果たす。広重を演じるのは、声優・俳優の津田健次郎。津田の深みのある声が、約180年前の江戸の風景を現代の車窓に重ね合わせ、見慣れた山手線の沿線の文化を、時空を超えるように読み解いていく。

参加者にプレゼントされたオリジナルグッズ。抹茶で乾杯することができた

 列車の出発駅である大崎は、江戸時代「お茶のテーマパーク」とも呼べる場所だった。松江藩主であり、「不昧(ふまい)」の名で知られる大名茶人・松平治郷がこの地に隠居し、2万坪もの広大な下屋敷に「独楽庵(どくらくあん)」をはじめとする11もの茶室を点在させていたという。案内役の広重は、当時の茶室がいわば江戸の「文化サロン」であったことを紐解く。身分を超えて人々が集い、一杯の茶を介して詩を詠み、絵を眺め、新たな知性や表現が生まれる交流の場。この「一期一会」の精神を現代へとつなぐべく、車内では乗客全員による「お茶で乾杯!」という出発の儀式が行われた。

 この茶室という文化サロンのDNAを、21世紀の文脈で再構築した拠点が「TAKANAWA GATEWAY CITY」に誕生した「MoN Takanawa: The Museum of Narratives(MoN Takanawa)」だ。「MoN Takanawa」もまた、アートや伝統芸能、食、テクノロジーが交差する新たな対話の場となる茶室のような「実験的ミュージアム」といえる。

山手線の車内がランウェイとなる

 列車が渋谷・原宿エリアへと差し掛かると、車内の空気は一変し、走行する山手線の通路が突如として「動くランウェイ」へと変貌を遂げ、ファッションショーが始まった。かつては大名の下屋敷が点在する静かな土地だった原宿は、戦後、進駐軍向け住宅「ワシントンハイツ」の建設を機に海外文化の窓口となり、やがてアンノン族や竹の子族、裏原宿といった独自のスタイルが生まれる「流行の最前線」へと進化した。この街の変遷を語るうえで欠かせないのが、日本初の大規模なファッションショーを実現したデザイナー・田中千代の存在だ。

 彼女が説いた「装うことは自分を表現する力になる」という志は、いまもこの街のDNAとして息づいている。ラジオ音声がその歴史を解説するなか、田中千代学園を前身とする渋谷ファッション&アート専門学校の学生たちによるファッションショーが幕を開ける。車内を全15着のルックを纏ったモデルたちが先頭車両から最後尾まで練り歩いた。

重なる文化と平和を考える

 列車が高田馬場、そして池袋エリアへと進むにつれ、話題は日本が世界に誇る「マンガ文化」へと移り変わる。車窓の向こう側に位置する豊島区の椎名町には、かつて「トキワ荘」が存在した。「マンガの神様」手塚治虫を筆頭に、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫といった若き才能が、互いに切磋琢磨しながら現代マンガの礎を築き上げた、いわば漫画界の梁山泊だ。

 案内役の広重は、かつて自身が描いた浮世絵もまた、絵で物語を語る日本の伝統的な系譜の一部であることを示唆し、その精神が現代のマンガへと脈々と受け継がれていることを語る。そして、この「物語(ナラティブ)」を伝える文化はいま、TAKANAWA GATEWAY CITYにおいてさらなるアップデートを迎えようとしている。その象徴が、生と死、そして輪廻転生を描いた手塚治虫の代表作『火の鳥』を題材とした、「MoN Takanawa」の地下空間「Box1000」で展開される没入体験型プログラム「MANGALOGUE(マンガローグ):火の鳥」だ。たんにマンガを「読む」体験ではなく、最新のテクノロジーを駆使し、マンガの世界観そのものに没入するこの試みは、紙の上の平面的な表現を立体的なアート体験へと昇華させるものといえるだろう。トキワ荘のアパートの一室から始まった物語の連鎖は、時を経てアートとテクノロジーの融合により、観客自身が物語の内側へと入り込む新たな表現の地平を切り拓いている。車内ではこの「マンガローグ」の予告を告げるように、大阪から駆けつけた「ちんどん通信社」による賑やかなちんどん行列が通路を練り歩き、懐かしくも新しい祝祭の空気を演出した。

 駒込エリアから日暮里周辺へと差し掛かると、車内には厳かな空気が流れ出す。ここで語られるのは、徳川家康が江戸という都市に施した「平和のためのグランドデザイン」である。上野の寛永寺や不忍池、そして神田明神。これらはたんなる宗教施設ではなく、江戸城の鬼門を封じ、この街を霊的に守護するために家康と側近の天海が仕掛けた、いわば平和への祈りの装置であった。

法螺貝の音とともに練り歩く徳川家康

 案内役の広重は、約260年もの泰平の世が続いたからこそ、江戸の街に遊びや学び、そして多彩な表現が花開いたのだと説く。そのメッセージを象徴するように、車内には突如として徳川家康(名古屋おもてなし武将隊)が登場した。家康はほら貝を吹く足軽とともに、乗客たちが待つ各車両を堂々と練り歩き、一人ひとりに挨拶を交わしていく。「平和が続くということは、文化が育つということ。戦がなければ、人は遊び、学び、つくり始める」。 この家康の言葉は、山手線の車窓に広がる秋葉原の電子文化や上野の芸術文化が、平和という土台の上に芽吹いたものであることを思い出させてくれる。この「平和の設計思想」は、現在、TAKANAWA GATEWAY CITYという新たなまちづくりへと引き継がれている。家康が江戸を設計したように、いまこの瞬間も、誰かが次の100年の平和と文化を想い描いている。家康の降臨というドラマチックな演出は、高輪がたんなる開発エリアではなく、豊かな文化を次世代へつなぐための場であることを、乗客の胸に深く刻み込んだ。

天野凱斗がプロデュースしたふたりのDJが「Gateway Park」をパフォーマンスで盛り上げる

 山手線を約1周し、列車は目的地となる高輪ゲートウェイ駅に到着。駅前の「Gateway Park」では次世代エンターテインメントイベント「ZERO FES」出演アーティストによるDJ ライブが開催されていた。この「ZERO FES」のプロデュースを担ったのは、若干15歳のプロデューサー・天野凱斗。天野は、世界で活躍する同世代の才能たちを集結させ、10代自らが文化の担い手となって未来をつくり上げていく決意を表現した。広重は、その光景をかつての高輪の浜辺に集った「廿六夜待ち」の人々の笑顔に重ね合わせる。「時代は変わっても、人が人を呼び、文化が生まれる仕組みは、変わらないものですな」。かつて江戸の玄関口であった高輪は、いま、国籍や世代を超えた交流が生まれる「未来の玄関口」へと進化した。「TAKANAWA GATEWAY CITY」は、山手線が描き続ける円環とともに、東京の街が積み重ねてきた文化を明日へと運んでいく。絶えず新しい物語が生まれ続ける、生きた文化の出発点がここに誕生した。