2026.9.30

バスキアが約15.5億円でトップ。クリスティーズ香港オークション、総額146億円で前年比28%増

クリスティーズ香港の秋季イブニングセールが開催。総額は約146億円と前年同期比28パーセント増。いっぽう、過去2年とは異なり「1億香港ドル超」の作品は不在だった。市場の調整が続くなか、今回の結果から見えてくるものとは。

文=王崇橋(編集部)

ジャン=ミシェル・バスキア《Ancient Scientist》(1984)が手数料込み7697万5000香港ドル(約15億4500万円)で落札された CHRISTIE’S IMAGES LTD. 2026
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 クリスティーズ香港の「20th/21st Century Evening Sale」が9月29日に開催され、手数料込みの落札総額は7億2642万1000香港ドル(約146億円)となった。セール前に撤回された2点を除く50点すべてが落札され、ロット数ベースの落札率は100パーセント。落札総額は前年同期から28パーセント増加した。

 前年同期は38点のうち35点が落札されており、今回は出品点数そのものが増加したことも総額を押し上げた。いっぽう、2025年秋にはパブロ・ピカソ《Buste de femme》(1944)が手数料込み1億9675万香港ドル、24年秋にはクロード・モネ《Nymphéas》(1897〜99頃)が2億3338万香港ドル、フィンセント・ファン・ゴッホ《Les canots amarrés》(1887)が2億5063万香港ドルで落札されていたのに対し、今年は1億香港ドルを超える作品はなかった。

バスキアが約15.5億円でトップロットに

 この日の最高額を記録したのは、ジャン=ミシェル・バスキア《Ancient Scientist》(1984)。5600万〜7600万香港ドルの予想落札価格に対し、6250万香港ドルで落札され、手数料込みでは7697万5000香港ドル(約15億4500万円)となった。クリスティーズによると、同作は今秋のアジアにおけるオークションで、現時点でもっとも高額で落札された作品となった。

下見会より、ジャン=ミシェル・バスキア《Ancient Scientist》(1984)

 同作は2020年にフィリップス香港で5833万香港ドルで落札されており、6年ぶりにオークション市場へ戻ってきた。

 これに続いたのが、ザオ・ウーキーの《Voie lactée - 09.11.56》(1956)だ。4500万〜7500万香港ドルの予想落札価格に対し4750万香港ドル、手数料込み5885万香港ドル(約11億8100万円)で落札された。

 8月に97歳で逝去した草間彌生の作品も複数出品された。そのうち《A-Pumpkin (YHP)》(2011)は4800万〜6800万香港ドルの予想落札価格に対し、ハンマープライスは4700万香港ドルと最低予想落札価格にわずかに届かなかったものの、手数料込み5824万香港ドル(約11億6800万円)で落札。《INFINITY-NETS [WUPT]》(2016)は1300万〜2000万香港ドルの予想に対し1450万香港ドル、手数料込み1856万香港ドル(約3億7200万円)となった。

下見会より、草間彌生《A-Pumpkin (YHP)》(2011)

草間逝去後、市場はどう動くのか

 草間の逝去後、作品市場はどのように変化するのか。セールに先立ち美術手帖の取材に応じたクリスティーズ・アジアパシフィックの20/21世紀美術イブニングセール責任者、アーコウ・ユーは、現時点で大きな変化は見られないとの見方を示していた。

 ユーによれば、草間が高齢だったことは市場ですでに広く認識されており、逝去を受けて作品を所有するコレクターが短期的に一斉に売却へ動く可能性は低いという。いっぽう、問い合わせや市場での注目は増えると予想し、「価格はかなり安定している」と指摘。長期的には価格が緩やかに上昇する可能性があるとの見解を示した。

 供給についても、短期的に大量の作品が市場へ流入するとは考えておらず、長期的にもオークションやプライベートセールを通じて一定数が継続的に取引されるとの見通しを示した。また今後は、草間彌生財団による展覧会や出版などを通じたレガシーの継承も重要になるとした。

約230年ぶりに競売へ。ルーベンスは予想を大幅に上回る

 いっぽう、この日の入札でとくに勢いを見せたのが、西洋のオールドマスターから20世紀美術までの作品だった。

 約230年ぶりにオークションに登場したピーテル・パウル・ルーベンスの小品《Landscape with Willows》は、600万〜800万香港ドルの予想落札価格から競り上がり、1500万香港ドルで落札。手数料込みでは1920万香港ドル(約3億8500万円)と、最低予想落札価格の2.5倍に達した。

ピーテル・パウル・ルーベンス《Landscape with Willows》(制作年不詳) CHRISTIE’S IMAGES LTD. 2026

 アンリ・マティス《Jeune femme au canapé》(1944)も、2000万〜3000万香港ドルの予想に対し3050万香港ドル、手数料込み3811万香港ドル(約7億6400万円)で落札。このほか、ポール・セザンヌ《L’Assiette bleue》(1879-80)が4055万香港ドル、サルバドール・ダリ《Ensorcellement – Les 7 Arts》(1957)が1728万香港ドルで落札された。クリスティーズによると、この4点はいずれも、各作家のアジアにおけるオークション最高額を更新した。

ポール・セザンヌ《L’Assiette bleue》(1879-80) CHRISTIE’S IMAGES LTD. 2026

 パブロ・ピカソの3作品も登場。《Femme Nue III》(1964)は手数料込み2554万4000香港ドル、《Buste d’homme》(1969)は2505万6000香港ドル、《Nature morte devant une fenêtre》(1919)は768万香港ドルでそれぞれ落札された。

石田徹也は最低予想価格の約2倍に

 日本人作家では、奈良美智の彫刻《Miss Forest / Creamy Snow》(2016)が手数料込み1216万香港ドル(約2億4400万円)で落札。石田徹也《Body Fluids》(2004)は240万香港ドルの最低予想落札価格に対し、ハンマープライスが約2倍となる470万香港ドルまで競り上がり、手数料込み601万6000香港ドル(約1億2100万円)となった。

下見会より、石田徹也《Body Fluids》(2004)

 このほか、西村有《Down to the Trail》(2016)が307万2000香港ドル、加賀温《The Solace of the Cats》(2021)が230万4000香港ドル、Mr.《Convenience Store - We Would Always Eat Our Snacks Here, Even in the Middle of the Night》(2020)が332万8000香港ドルでそれぞれ落札された。

下見会より、西村有《Down to the Trail》(2016)

 いっぽう、児島善三郎《Nude on a Green Couch》(1928)は100万香港ドルの最低予想落札価格に対して60万香港ドル、手数料込み76万8000香港ドルで落札され、最低予想落札価格を下回った。

100パーセント落札、その背景にある価格戦略

 全作品が落札されたとはいえ、個々の結果を見ると、価格に対する慎重さもうかがえる。

 そのひとつが、セール前のハイライトとして紹介されていたゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild》(1991)だ。3800万香港ドルの最低予想落札価格に対し、ハンマープライスは2800万香港ドルにとどまり、手数料込み3506万香港ドル(約7億300万円)で落札された。草間の《A-Pumpkin (YHP)》も、前述の通りハンマープライスでは最低予想落札価格に届いていない。

クリスティーズのウェブサイトより、ゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild》(1991)

 こうした状況からは、買い手側の需要だけでなく、質の高い高額作品をいかに市場へ呼び込むかという課題も見えてくる。

 セール前の取材でユーは、現在の大きな課題のひとつとして、質の高い作品の出品をいかに促すかという点を挙げた。これはクリスティーズだけでなく、世界のオークション市場に共通する課題だという。高額作品の売却は市場環境だけでなく、所有者の作品への愛着や保有期間、相続、転居といった個人的な事情にも左右されると説明した。

 これに対してユーが強調したのは、単純に1点の超高額作品を追うのではなく、「それぞれの価格帯、作家、時代における最良の作品」を集めるという方針だ。今季は個々の作品の評価額が過去のシーズンほど高くないものの、バスキアや草間など、それぞれの価格帯で競争力のある作品を揃えたと説明。アジアのコレクターについても、質の高い作品に対する需要は依然として強いとの認識を示した。

「1億香港ドル超」不在のなか、平均価格をどう高めるか

 この方針は、セール後のクリスティーズ側の説明にも表れている。同社アジアパシフィック20/21世紀美術部門責任者のエイダ・ツイは美術手帖の取材に対し、今年は1億香港ドルを超える作品こそなかったものの、5000万香港ドルを超える作品が複数あったことに着目。突出した1点に総額を依存するのではなく、作品全体の平均的な価格水準を高めることで、市場変動に対するリスクを抑える考えを示した。

 高額な一点に牽引されるのではなく、より多くの作品を適切な価格帯で成約させる──100パーセントの落札率と前年同期比28パーセント増という今回の結果は、市場の調整が続くなかで、オークションハウス側の戦略にも変化が生じていることを示すものとなった。