2026.5.19

ヴェネチア・ビエンナーレで参加作家ら70人超が「ビジターズ・ライオン賞」を拒否

第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」をめぐり、メイン展示参加アーティストや国家館関係者70人以上が、新設された「ビジターズ・ライオン賞」の選考対象から辞退する声明を発表した。

プレビュー期間中の5月8日、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」の参加アーティストのひとりである嶋田美子がアメリカ館の前で行った抗議パフォーマンスの様子 撮影=編集部

 5月9日に開幕した第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」をめぐり、メイン展示参加アーティストや各国パビリオン関係者70名以上が、新設された「ビジターズ・ライオン賞」の選考対象から辞退する声明を発表した。

国際審査員団の総辞任を発端に

 今回の動きは、4月末に発生した国際審査員団の総辞任を受けたものだ。審査員団は4月23日に発表した声明のなかで、「国際刑事裁判所(ICC)によって人道に対する罪で訴追されている国家の代表には賞を授与しない」と表明。イスラエルおよびロシアを念頭に置いた方針と受け止められ、大きな議論を呼んだ。

 審査員たちは声明で、「ヴェネチア・ビエンナーレが、芸術を同時代の切迫した問題と結びつけてきた歴史的役割に対して責任を負っている」と説明。「芸術実践と国家代表制との複雑な関係、とりわけ作家の作品が国家の行為と結びつけられる構造を認識している」としたうえで、「人権擁護と、コヨ・クオのキュラトリアル・プロジェクトの精神を守るため、人道に対する罪で訴追された国家の代表は審査対象としない」と述べていた。

 しかし、この方針に対しイスラエル外務省は、「イスラエル代表作家ベル・シモン・ファイナルをボイコットするものだ」とX上で反発。政治的圧力や法的問題に発展する可能性も指摘されるなか、ビエンナーレ側は4月30日に審査員団の辞任を正式受理した

 これを受けてビエンナーレ財団は、通常の金獅子賞に代わる措置として、来場者投票による「ビジターズ・ライオン賞」を新設。「In Minor Keys」参加作家を対象とする賞と、国家館を対象とする賞の2部門を設けた。投票は、ジャルディーニとアルセナーレ両会場を訪れた来場者が対象となり、会期終了後の11月22日に結果が発表される予定だ。

 ビエンナーレ側は声明で、「すべての国家参加は、開放性、対話、検閲の拒否というビエンナーレ創設以来の理念に基づき、平等に扱われる」と説明。「ビエンナーレは、芸術、文化、表現の自由の名のもとに停戦の場であり続けなければならない」と強調した。

アーティストたちの抗議声明

 しかし、こうした対応に対し、メイン展示「In Minor Keys」の参加アーティストらが5月9日、e-fluxで抗議声明を発表。「私たちは、コヨ・クオによって選出された作家として、彼女が選んだ審査員団の辞任に連帯し、『ビジターズ・ライオン賞』の対象から辞退する」と述べた。

 署名者には、ワリド・ラード、アリス・メイハー、ローリー・アンダーソン、アルフレド・ジャー、ソラブ・フラら国際的なアーティストに加え、日本から嶋田美子、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、アレクサ・クミコ・ハタナカらも名を連ねる。また、国家館側からも、アイルランドのイヴォ・バラダ、オランダ館のドリース・フェルフーフェン、リトアニア館キュレーターのエグレ・ブドヴィティテらが参加している。

 インド出身の写真家ソラブ・フラは「The Art Newspaper」に対し、「良心ある人なら誰でも審査員と同じ行動を取っただろう。賞を期待するより、彼らを支持したい」とコメント。いっぽうでビエンナーレ側は、「署名した作家であっても、受賞した場合は賞を受け取らないだけであり、投票対象から外れるわけではない」と説明している。

 今回のビエンナーレでは、イスラエル館をめぐる抗議も続いている。プレビュー期間中には、複数の国のパビリオンが一時閉鎖されるストライキ行動が実施されたほか、イスラエル館前では抗議デモも行われた。また、ロシア館ではプレビュー期間中のみ一般公開され、ライブパフォーマンスを実施。会期中は、記録映像のみが館の窓に設置されたスクリーンで上映されている。EU(欧州連合)は、ロシア館の参加を理由のひとつとして、今回のビエンナーレに対する関連助成の撤回を決定したことも波紋を呼んでいる。

 故コヨ・クオの理念を継承するかたちで進行している今回のヴェネチア・ビエンナーレ。開幕直後から、国家代表制と芸術の自由、倫理と制度運営の関係をめぐる議論が、これまで以上に前景化している。