2026.10.10

「MEET YOUR ART FESTIVAL 2026」開幕レポート。森山未來がディレクション、150組以上のアーティストが集結。

東京・天王洲運河一帯で、アートとカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2026」が開幕した。会期は10月12日まで。5周年を迎える今年は、森山未來がアーティスティック・ディレクターを務めるアートエキシビション「REFLUX たちのぼる兆し」を中心に、2つのアートフェアやマーケット、ライブパフォーマンスなどを展開。内覧会の様子をレポートする。

文・撮影=大原愛美(編集部)

展示風景より、磯村暖《Informe-action Center #749》(2026)
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 東京・天王洲運河一帯を舞台に、アートとカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2026」が開幕した。会期は10月12日まで。会場の様子をレポートする。

 2022年に初開催され、今年で5周年を迎える同フェスティバル。今回は150名以上のアーティストが参加し、アートエキシビション「REFLUX たちのぼる兆し」、2つのアートフェア「MEET YOUR ARTISTS」「CO-CROSSOVER」、マーケット、ライブパフォーマンス、トークセッションなどを天王洲運河一帯の会場で展開する。

変わりゆく世界に、何を引き戻すのか。「REFLUX たちのぼる兆し」

 フェスティバルの中心となるのが、寺田倉庫 G1-5Fで開催されるアートエキシビション「REFLUX たちのぼる兆し」だ。アーティスティック・ディレクターを務めるのは森山未來。キュレーターには吉田山と渡邊賢太郎が名を連ねる。

 「REFLUX」とは、逆流や環流を意味する言葉だ。本展は、加速度的に変化する現代社会において、進歩や発展という一方向の時間の流れからこぼれ落ちるものや、その流れのなかに生じる揺り戻しに目を向ける。

記者発表会より、森山未來(「MEET YOUR ART」 MC、MYAF2026アートエキシビション アーティスティック・ディレクター)

 森山は記者発表会で、あらゆるものが変容し続け、社会が加速度的に進化する現代について言及。そのうえで、「世界がこのまま変容を続けてよいのか」という問いを提示した。「REFLUX」という言葉には、何かを取り留め、引き戻すという意味合いも込められているという。アーティストたちに投げかけられた問いと、そこから生まれる様々なアプローチを通して、来場者に「『兆し』をつかみ取ってほしい」と語った。

記者発表会より、左から古谷留美(東京都生活文化局長)、evala、古後友梨(MEET YOUR ART共同代表)、津田道子、加藤信介(MEET YOUR ART代表/MEET YOUR ART FESTIVAL実行委員長)、山内祥太、森山未來(「MEET YOUR ART」 MC、MYAF2026アートエキシビション アーティスティック・ディレクター)、Ryu Ika、吉田山(MYAF2026アートエキシビション キュレーター)、渡邉賢太郎(MYAF2026アートエキシビション キュレーター)

 5周年を迎えるにあたり、実行委員長の加藤信介は、「アートの価値を広く社会へ伝えるという当初からの目的に加え、アートを起点として新しい文化と経済の循環を生み出していきたい」という展望を語った。 

 加藤によれば、前年の来場者数は約5万人だったが、開催直前のチケット販売数は前年同期比で約250パーセントに達しているという。

見ること、感じることの境界を探る

 「REFLUX たちのぼる兆し」には、Ideal Copy、磯村暖、evala、津田道子、手塚治虫(1928〜1989)、山内祥太、Ryu Ikaの7組が参加。映像や音、インスタレーションを通じて、普段は意識されることの少ない身体の感覚や、社会のなかに潜む変化の気配を浮かび上がらせる。

展示風景より、磯村暖《Informe-action Center #749》(2026)

 会場入口で展示されているのは、磯村暖によるシャボン玉を用いた《Informe-action Center #749》(2026)だ。シャボン玉は、かたちをとどめることなく漂い、やがて消えていく。磯村の作品は、この儚い存在を通じて、目に見えない風や空気の動きを鑑賞者に意識させるものとなっている。作品の説明を読むよりも先に、シャボン玉そのものを感じてほしいという意図があるという。

展示風景より、磯村暖《Informe-action Breath and Wind #506》(2025)

 シャボン玉を目にしたとき、私たちは空気の流れを感じるだけでなく、幼い頃の記憶が呼び起こされることもある。展覧会の最後にも磯村による作品《Informe-action Breath and Wind #506》(2025)を配置したのは、こうした感覚や記憶への働きかけを、鑑賞体験の入口と出口に据えるためだという。

展示風景より、山内祥太《In Between...Us?》(2026)

 いっぽう、山内祥太が出品するのは、地下茎の構造から着想を得たインスタレーション《In Between...Us?》(2026)だ。木の根や神経を思わせる白い構造体が広がり、周囲の音や声に反応して光を発する。

 本作の背景にあるのは、現代思想においてドゥルーズ/ガタリが提唱した「リゾーム」という概念だ。植物の地下茎のように、中心や階層を持たず、複数の方向へと広がりながら接続する関係性を指す。作品にはパフォーマーが入り込み、その動きや音に応じて構造体が変化する仕組みも組み込まれている。鑑賞者や周囲の環境との関わりによって、作品のあり方がその都度変わっていく。

展示風景より、津田道子《あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。》(2016/2026)

 津田道子は、複数のフレームを組み合わせたインスタレーション《あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。》(2016/2026)を展開。枠、映像を映し出すスクリーン、鏡という異なる性質のフレームが設置され、鑑賞者はそこに映り込む自分自身や他者の姿に向き合うことになる。

 あるフレームの向こうに見えるのは現実の空間だが、別のフレームには映像や鏡像が現れる。自分が他者を見る視線と、他者から見られる自分の姿が交錯することで、鑑賞者の位置や視点は揺さぶられていく。フレームは展示空間の複数の場所にも設置されており、鑑賞者は移動しながら、様々な視点を経験することになる。津田はこの作品を通して、思いがけない自分自身の姿を知ることを楽しんでほしいと述べた。

手塚治虫の群衆表現から、160台のスピーカーによる音響空間まで

 手塚治虫を取り上げる展示では、マンガのなかに描かれた群衆表現に焦点が当てられている。

展示風景より、手塚治虫の展示

 手塚がアシスタントに任せず、自ら描いていたという群衆の場面を拡大し、透け感のあるオーガンジー素材に印刷して展示。布はのれんのように垂らされたものもあり、鑑賞者はその間を通り抜けながら、作品世界の群衆のなかに入り込むような体験ができる。

 通常は小さなコマとして目にする場面を大きく引き伸ばすことで、描線の細部や人物一人ひとりの表情なども浮かび上がる。物語を追う際には背景として受け止められがちな群衆に改めて目を向けることは、個人と集団の関係、そしてそのなかにいる自己を見つめ直すことにもつながっている。

展示風景より、evala《Sprout "Coloratura"》(2026)

 視覚だけでなく、聴覚を通じて身体への働きかけを試みるのが、サウンドアーティストのevalaだ。展示されるのは、160台のオリジナルスピーカーを用いたサウンドインスタレーション《Sprout "Coloratura"》(2026)。空間のなかで立つ位置や身体の向きによって、音の聞こえ方が変わるように構成されている。

 作品にはソプラノ歌手・田中彩子の声が用いられている。音楽的な旋律だけでなく、ノイズのように聞こえる音も人間の声から生み出されたものであり、通常の楽譜には記しきれないような声の表現が含まれているという。音を聞くために身体を動かすと、その移動によってまた音の聞こえ方が変わる。音を受け取るだけでなく、音に身体が導かれるような経験が生まれる。

展示風景より、Ideal Copy《Channel: Money》(2026)

 社会のなかにある価値の仕組みに目を向けるのが、Ideal Copyによる《Channel: Money》(2026)だ。会場には100万円分の100円硬貨が並べられている。日常生活で流通し、ものやサービスと交換される貨幣が、ここでは作品として展示されている。

 100万円という金額は数値として理解できても、それが100円硬貨の集積として目の前に現れるとき、私たちが抱く金銭のイメージと物質としての貨幣との間には、ある種の隔たりが生まれる。また、硬貨は作品として展示されることで、通常の経済的な流通から切り離されている。

 キュレーターの渡邊は、強い光の反射によって硬貨そのものが見えにくくなる様子について、デジタル貨幣が普及する現代の状況とも重ねて説明した。貨幣の実体が見えにくくなるなかで、私たちは何を価値として受け取っているのか。身近な金銭の存在を通して、その問いが提示されている。

展示風景より、Ryu Ika《Precious promise》(2026)

 内モンゴル出身のアーティスト、Ryu Ikaは、移動や祈り、帰属をめぐるインスタレーション《Precious promise》(2026)を展開。

 作品には、モンゴルの伝統的な信仰や風習から着想を得た青い布が鉄骨に巻き付けられている。外側の各所で上映される映像では、ものの移動、移民、そして人々の居場所をめぐる問題を提起。内部には洞窟を思わせる空間も設けられ、金属のレリーフが配されている。会期中にはパフォーマンスを通じて青い布が増えていくことが予定されており、展示そのものが時間とともに姿を変えていく。

 こうした7組の作品に加え、本展ではカナキティ、QUICK|福井貴彦、contact Gonzo、ソー・ソウエン、ハラサオリ、涌井智仁の6組によるパフォーマンスも実施される。森山は、視覚的な作品の鑑賞にとどまらず、身体的かつ能動的に展示へ踏み込む経験を重視したという。

 作品を見ること、音を聞くこと、身体を動かすこと。その複数の経験を行き来することが、「REFLUX たちのぼる兆し」を読み解く手がかりとなる。

2つのアートフェアが示す、多様な表現の現在地

 アートエキシビションと並び、フェスティバルの柱となるのが2つのアートフェアだ。

「MEET YOUR ARTISTS」より、手前左が石井海音のブース

 寺田倉庫 B&C HALLで開催されている「MEET YOUR ARTISTS」は、「アーティストとの対話を通してアートと出会う」をコンセプトとするアーティスト主体のアートフェア。今年は49名以上の作家が参加し、作品の展示・販売を行う。また、2階には「日本性の再発見」をテーマとするキュレーションエリアも設置。日本の歴史や文化にまつわる表現を、現代のアートシーンにおいて捉え直す試みが展開されている。

「MEET YOUR ARTISTS」より、左側手前が長谷川彰宏のブース、右側奥が寺尾瑠生のブース

 参加アーティストは、青山悟(青山スタジオ)、石井海音、石川晶子(青山スタジオ)、磯村暖、WEIJIA、大森準平、尾形凌、岡上淑子、華雪、門倉太久斗/22世紀ジェダイ、上出惠悟、神谷遼、川谷光平、川端健太、木々津鏡、KINJO、後藤夏希、真田将太朗、すずえり(鈴木英倫子)、ソー・ソウエン、Yoshi Sodeoka(NEORT++)、谷口正造、辻一徹、寺尾瑠生、東城信之介、戸田沙也加、豊原国周(ネオ江戸:青山目黒)、永沢碧衣、長島伊織、中田愛美里、中山阿莉沙(euglena)、那須佐和子、NAZE、西久松友花、丹羽優太、Byungik Park、長谷川彰宏、濱大二郎、濵本奏、風能奈々、古澤龍(NEORT++)、南依岐、森靖、山中雪乃、横手太紀、米谷健+ジュリア、リュ・ジェユン、脇野あや。

「CO-CROSSOVER -Romantic beyond us (earth)-」より、GALLERY TARGET「BLOCK PARTY」のブース
「CO-CROSSOVER -Romantic beyond us (earth)-」より、Manbo Key「Winter Tokyo」のブース

 寺田倉庫 D HALLでは、もうひとつのアートフェア「CO-CROSSOVER -Romantic beyond us (earth)-」が開催されている。国内外のアーティストやキュレーター、クリエイターが参加し、17の展示企画を展開。現代美術を起点に、身体、テクノロジー、自然環境などをめぐる多様な表現が交差する場となっている。

マーケットや音楽ライブも。天王洲一帯を舞台にした4日間

 天王洲運河沿いのボードウォークやボンドストリート、WHAT CAFEでは、マーケット「SUPER ART & CRAFT MARKET」も開催されている。

ENTRANCE GATE。奥に伸びるボンドストリートではマーケットが展開される

 会場にはアートグッズやクラフト作品、フード、ドリンクを扱う店舗が出店している。WHAT CAFEでは全国から集まった46ブースが展開され、サンリオとのコラボレーションブースや「MEET YOUR ART FESTIVAL」のオフィシャルショップも設けられている。

船上スペース「T-LOTUS M」

 運河に浮かぶ船上スペース「T-LOTUS M」では、音楽を中心としたライブパフォーマンスを連日開催。初日の10月9日には小室哲哉と布施琳太郎によるコラボレーションパフォーマンスが披露された。会期中には日替わりで国内外のアーティストやDJによるステージが展開される。