2025.11.1

最良の環境で「素材・技術・美」の三拍子そろった作品を。「ア・ライトハウス・カナタ」が切り拓くアート界の未来

東京・表参道にこの10月、地上3階建+屋上フロアの規模を有する大型ギャラリーが出現した。西麻布から移転したア・ライトハウス・カナタである。今後ここでどのような活動が展開されていくのか。創業者の青山和平に話を聞いた。

聞き手・文=山内宏泰 ポートレイト撮影=稲葉真

青山和平
前へ
次へ

異色の経歴で切り拓いたギャラリストの道

ギャラリスト・青山和平氏の経歴は異色だ。オックスフォード大学院で法律を修め、もともとは政治の道を志していたという。

 どんな道を目指しても、人のために一隅を照らす灯台のような存在でありたいと気持ちを強く持っていました。自分の進路を決める時期になって、政治も魅力的に感じましたが、もとより好きな分野であったアートの領域のほうが、より多くの方々のために働けることに気づき、方向転換することとしました。

ア・ライトハウス・カナタのファサード 撮影=戸上慈海

 そうして現行のア・ライトハウス・カナタの前身となるギャラリーを、2007年に立ち上げました。ギャラリー運営のノウハウもなければ所属作家もいない状態でしたが、まずは翌年に英国ヴィクトリア&アルバート美術館で開催されるアートフェアに参加願書を送りました。幸い審査が通り出展すると瞬く間に作品は完売し、顧客も徐々についてきました。

 2013年にオランダの老舗アートフェア「TEFAF」にはじめて日本のギャラリーとして参加を果たし、その後フリーズ・ソウルにも出展、26年3月にはアート・バーゼル香港にも出展します。試行錯誤と紆余曲折を経ながらですが、未経験のところからここまで漕ぎ着けました。道を拓く力となってくれたのは、海外で学び生活してきたことによる語学力、文章力、そして観察力かもしれません。

 私はすべての作品の解説および図録の文章を自分一人で和英で執筆しています。それにより、ギャラリーや作家の想いを、いつもブレず正確に伝えることができる気がします。また私は生来、人の観察が好きなので、お客様の立ち居振る舞いや作品を眺める様子から、何を考え、どんなものを求めているかはある程度、感じることができます。そのおかげもあって、一度縁のできたお客様とは、深くて長いお付き合いをさせていただくことが多いです。

青山和平

青山が最初に開いたギャラリーは東京・南青山にあった。ほどなく西麻布へ移り、このたび表参道での移転オープンと相成った。場を移す直接の理由は、業務拡大によりギャラリー・オフィススペースとも手狭になってきたから。新しく場をつくるなら、今回はとことん理想の空間を築こうと、青山氏は心に決めたという。

 表参道のケヤキ並木からも駅からも近く、それでいて一本奥まったところにあって閑静で……というすばらしい立地を得られました。展示スペースも十分な広さを確保できました。1階がメインギャラリーになっており、2階はプライベートギャラリーとVIP用のバーと応接室、3階がオフィスで、開放的なルーフトップも兼ね備えています。

1階のメインギャラリー 撮影=戸上慈海

 空間全体を構成する素材には、イタリア産の表情豊かな石材トラバーチンをふんだんに使っています。私にはかねて「現代アートを置くギャラリー空間はなぜホワイトキューブでなければいけないのか?」という疑問がありました。かねてより大聖堂の厳かな雰囲気のなかで佇む彫刻などが好きでした。トラバーチンの空間なら、そこに置かれた作品も同じく神秘的な雰囲気に包むことができると思いました。

 ギャラリーの美意識が具現化された空間を、つねに保っていきたいと考えています。

1階のメインギャラリー 撮影=戸上慈海

作品選定における重要な3つの要素

そんなこだわりの空間で、どんな作品が観られることになるのだろうか。取扱作家に陶芸家の深見陶治、石の彫刻で知られる安田侃、ガラスの生田丹代子、そして日本画家の三鑰彩音……。素材・手法・世代も様々なアーティストが名を連ねるが、こうしたラインアップになっているのは、ギャラリー独自の明確な基準があるようだ。

 ア・ライトハウス・カナタ所属の作家たちに共通する特質を挙げるなら、自分の扱っている素材を誰よりも知り尽くし、愛情を持って接し、その素材を扱うイノベーティブな技術を駆使して、だれも見たことのない美意識をつくりあげているところだといえます。かねてより、名作と言われる作品には3つの要素、「マテリアリティ」「技術」「美しさ」から成ると私は考えています。これらが揃うと、時代を超えて残っていく表現になる。ア・ライトハウス・カナタの作家は皆、この条件を満たしていると思います。

 現代アートの歴史はマルセル・デュシャンによって、コンセプト中心の方向へ流れてきたと思われますが、多くのお客様はコンセプトだけでは物足りなく感じ、より本質的なアートを求めているように思います。だからこそ、私たちは時代へのアンチテーゼを提示したい。説明抜きで、一見して人の心を捉えられるような作品を、作家との二人三脚で生み出していきたいと考えています。

青山和平

 年間100人に迫る新しい作家の方々が当方へ連絡をくださいます。アポさえとっていただければ必ず作品を拝見していますが、その際に私は略歴などを一切見ません。作品のみと向き合い、響くものがあればいっしょにやっていきましょうとお声がけをします。ともに歩む作家と出逢えるかどうかは、ご縁としか言いようがありませんね。

 出逢いも大切ですが、そのあとのお付き合いのしかたはいっそう重要です。作家は自分の作品を客観的には見られないものですから、私の役目は作家の創作全般について、できるだけ客観的な視点から見続けることとなります。そうして見つけた長所も短所も、作家が自分で気づけるようにアドバイスをしていきます。

 さらにはギャラリーとして、機会を存分に提供していくことも重視しています。個展開催時はもちろんのこと、アートフェアに出品を依頼するときも、基本的にはすべての作家にそのつどコミッションします。このフェアに出すので、このような作品を制作いただけないかと明示し、新作に取り組んでもらっています。

 ギャラリーとは、作家がより大きく羽ばたけるための、プラットフォームなのだと思います。

2階のプライベートギャラリー

海外発信に注力

移転後最初の展示は、所属作家によるグループ展「ア・ライトハウス・カナタ 表参道 移転記念展『OPENING CEREMONY II』」(〜11月8日)だ。第2弾は陶芸家・三原研の個展となる。

 国内外40以上の美術館に作品が収められている陶芸家です。これまで「起源」「鼓動」「景」「久遠」「醒」といったシリーズで抽象表現を極めてきましたが、このたび新シリーズ「響」を発表します。独自の土の焼き味から立ち上る静謐な空気感を、ぜひ味わってください。幽玄の美とはこのことか、ときっと感じられるのではないでしょうか。

 三原さんをはじめア・ライトハウス・カナタの作家の皆さんを、広く国内外に紹介していくことが、私たちの使命です。日本人作家の手によるアートを海外で紹介すれば、必ず評価されると思っており、日本美術の未来は明るいと確信しています。

 移転したア・ライトハウス・カナタを拠点にしながら、これから国内海外を問わず、積極的な活動をしていくつもりですので、ぜひともご注目ください。

2階にあるVIPルーム