【前編】規模拡大の時代はもう終わったのか──ギャラリーの閉廊・再編から、アートマーケットの転換点を読む
BLUMの閉廊やPaceの組織再編をはじめ、世界各地でギャラリーの閉廊や再編が相次ぎ、現代アートの市場はいま大きな転換点を迎えている。本稿では市場データや主要ギャラリーの事例から、アートマーケットが抱える構造的課題を、ロサンゼルスとニューヨークの2都市を拠点とするアートジャーナリスト、シャイアン・アシルが読み解く。※7月28日24時まで、すべての方に全文お読みいただけます。

ギャラリー閉廊が問いかけるもの
2025年夏のBLUM(旧Blum & Poe)の閉廊、そしてメガギャラリーであるPaceの組織再編と事業縮小。近年相次ぐこうした動きは、現在のギャラリーモデルは持続可能なのかという問いを、アートワールドに突きつけている。運営コストの上昇や利益率の低下、コレクターの購買行動の変化が重なるなか、ギャラリー経営の財政的な不確実性や世界各地で続く紛争も背景となり、いま改めてアートマーケットの構造そのもの、さらには経済的・政治的に不安定な時代において芸術はいかなる役割を果たすべきなのかが問い直されている。
BLUMのディレクターであるティム・ブラムと、Paceの最高経営責任者であるマーク・グリムシャーは、それぞれ閉廊や組織再編の理由として、現在のギャラリーモデルの不安定さを挙げている。両者に共通しているのは、商業化と企業化が進み続けるアートワールドに対する違和感である。彼らの言葉からは、競争よりも共同体意識が重視されていた時代へのノスタルジアと、現在の非人格的なアートシステムへの失望がうかがえる。同時に2人は、この状況を生み出したシステムに、自らも加担してきたことを率直に認めている。そして、その認識こそが、閉廊あるいは組織再編という決断へとつながったのである。
もちろん、こうした市場の変化を単一の要因だけで説明することはできない。市場にはつねに好況と不況があり、長い目で見ればギャラリーの開廊と閉廊は自然な循環でもある。しかし、よりミクロな視点から見れば、近年のアートマーケットの不安定さは、混迷を深める社会におけるアートの位置づけと、それを流通させるシステムとのあいだに生じた乖離を映し出している。アートが果たす社会的役割と、それを支える市場構造との隔たりは、これまで以上に顕在化しているのである。拡大と成長を前提とする巨大企業型のモデルは、もはや十分に機能していない。むしろいま求められているのは、アートを利益を生み出す商品としてではなく、人間的な営みとして捉え直す視点ではないだろうか。より小規模で、より個人的で、コミュニティに根ざしたあり方こそが、結果としてより持続可能なシステムにつながる可能性がある。











