髙木優希「静かな誤訳」

　ARTDYNEで、髙木優希による個展「静かな誤訳」が開催されている。

　髙木優希は1994年福島県生まれ。2021年に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業後、24年3月に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程を修了。現在は東京を拠点に活動している。他人の部屋の写真をもとにスチレンボードや紙粘土で模型を制作し、そこに光を当てて撮影したイメージをさらに絵画へと描き起こすという多層的な方法で制作を行う。

　他者の私的空間である部屋を記録することから始まるそのプロセスは、住人のあらゆる痕跡を削ぎ落として制作される模型を再撮影するという儀式的手順を経たのちに、絵画として再構築される。その画面においては、物理的な空間の再現ではなく、「存在していたかもしれない何か」の記憶が、まるで亡霊のように出現する。髙木の行う「誤訳」は、たんに再現度の過不足を創出するだけでなく、見る者の無意識と共鳴しながら、見えない気配や不在のリアリティを伝える詩的な手段であるといえる。空虚のなかに潜む感覚、沈黙のなかに宿る余白を通して、視覚と感覚のあいだに生まれる静かな揺らぎを体感してほしい。