EXHIBITIONS
時吉あきな「Liminal Suite」
BnA Alter Museumで、時吉あきなによる個展「Liminal Suite」が開催されている。
時吉あきなは1994年大阪府生まれ。2016年に京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科を卒業。スマートフォンで撮影した対象の写真をコピー用紙に出力し、ほぼ原寸大の立体コラージュとして再現する作品を制作。平面の写真を強制的に立体にすることで、不自然な歪みや独特の表情を持つ複製物が生まれる。国内外の美術展へ出品しながら、ABC-MARTやほぼ日などのクライアントワーク、お笑い芸人・金属バット主催のグループ展やオルタナティブロックバンド・GEZANのMV『誅犬』への作品提供、京都芸術大学非常勤講師なども務めている。
以下、本展キュレーターの筒井一隆によるステートメントとなる。
「本展タイトルである『Liminal Suite』とは、境界を表す『Liminal』と連続を表す『Suite』を組みあわせた造語となっています。これは、時吉あきなが制作で多用する『コラージュ』手法によって現れる張りあわされた素材同士の切断面/境界の連続である作品そのものを表していると同時に、見慣れた場所が通常の文脈を欠いて提示されるネットミーム『Liminal Space』、そしてホテルである当館にちなんで構想されました。
そもそも20世紀キュビズム以降、美術の文脈において、『コラージュ』とはもとの『糊で貼り付ける』こと以上に、ほかの領域(もしくはほかの時間)に属していた諸要素を、新しい芸術のコンテクストに移すことを意味します。(*1)この移動もしくは過渡的なタームが展開される場所が本展『Liminal Suite』であり、時吉が過去/現在と制作を続ける作品群でもあるのです。
時吉によるコラージュ手法を用いた作品制作は2016年より始まりました。現実の空間にある対象を写した複数の写真を素材として三次元的に貼りあわされ構成された立体や、それらを含むインスタレーション。とくにその中心となるペットをはじめとした小動物を再現する立体シリーズは、生活圏が近しくとも人ならざる対象を設定し、その対象が感覚する空間作品としても提示されるのです。ここでも時吉の、人から対象への感性的な移動に対する関心が顕になっていると言えるでしょう。
さて、本展では、これら対象の再現である立体作品を、再度撮影、プリントし現実に再配置・構成され再々撮影された写真作品『A・KU〜感』(≒亜空間)を中心に展示いたします。これまでの立体作品のインスタレーションビューを自身で撮影していた感覚から着想を得て2024年からスタートしたという『A・KU〜感』シリーズは、これら立体作品に現れる表面と奥行きの微弱な振動をより象徴的に表していると言えるでしょう。そもそも時吉の立体作品は、現実の二次元的切り抜きである写真から三次元立体を立ち上げる時、その映り込んだ対象が二次元的な面である以上、どうしても環境を含め余計に映り込んだ余剰と、逆に再現に必要な映り込んでいない不足を伴っています。この余剰と不足の同居が顕著に現れる場所が『素材同士の切断面/境界』なのであり、その連続を通して鑑賞者の目は、作品の表面と奥行きで高速に移動=振動し亜空間への回路がつながるのです(*2)」。
*1──河本真理『切断の時代 20世紀におけるコラージュの美学と歴史』(ブリュッケ、2007)
*2──「Liminal Space」からインスパイアされた都市伝説「The Backrooms」では、現実世界での壁抜けバグによって空っぽなオフィスルームの迷路に迷い込んでしまう。この壁抜けバグとは、主にゲーム用語であり、代表的な例として操作するキャラクターが壁へと高速で衝突した時に衝突判定が行われず壁をすり抜けてしまう現象のことを言う。
時吉あきなは1994年大阪府生まれ。2016年に京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科を卒業。スマートフォンで撮影した対象の写真をコピー用紙に出力し、ほぼ原寸大の立体コラージュとして再現する作品を制作。平面の写真を強制的に立体にすることで、不自然な歪みや独特の表情を持つ複製物が生まれる。国内外の美術展へ出品しながら、ABC-MARTやほぼ日などのクライアントワーク、お笑い芸人・金属バット主催のグループ展やオルタナティブロックバンド・GEZANのMV『誅犬』への作品提供、京都芸術大学非常勤講師なども務めている。
以下、本展キュレーターの筒井一隆によるステートメントとなる。
「本展タイトルである『Liminal Suite』とは、境界を表す『Liminal』と連続を表す『Suite』を組みあわせた造語となっています。これは、時吉あきなが制作で多用する『コラージュ』手法によって現れる張りあわされた素材同士の切断面/境界の連続である作品そのものを表していると同時に、見慣れた場所が通常の文脈を欠いて提示されるネットミーム『Liminal Space』、そしてホテルである当館にちなんで構想されました。
そもそも20世紀キュビズム以降、美術の文脈において、『コラージュ』とはもとの『糊で貼り付ける』こと以上に、ほかの領域(もしくはほかの時間)に属していた諸要素を、新しい芸術のコンテクストに移すことを意味します。(*1)この移動もしくは過渡的なタームが展開される場所が本展『Liminal Suite』であり、時吉が過去/現在と制作を続ける作品群でもあるのです。
時吉によるコラージュ手法を用いた作品制作は2016年より始まりました。現実の空間にある対象を写した複数の写真を素材として三次元的に貼りあわされ構成された立体や、それらを含むインスタレーション。とくにその中心となるペットをはじめとした小動物を再現する立体シリーズは、生活圏が近しくとも人ならざる対象を設定し、その対象が感覚する空間作品としても提示されるのです。ここでも時吉の、人から対象への感性的な移動に対する関心が顕になっていると言えるでしょう。
さて、本展では、これら対象の再現である立体作品を、再度撮影、プリントし現実に再配置・構成され再々撮影された写真作品『A・KU〜感』(≒亜空間)を中心に展示いたします。これまでの立体作品のインスタレーションビューを自身で撮影していた感覚から着想を得て2024年からスタートしたという『A・KU〜感』シリーズは、これら立体作品に現れる表面と奥行きの微弱な振動をより象徴的に表していると言えるでしょう。そもそも時吉の立体作品は、現実の二次元的切り抜きである写真から三次元立体を立ち上げる時、その映り込んだ対象が二次元的な面である以上、どうしても環境を含め余計に映り込んだ余剰と、逆に再現に必要な映り込んでいない不足を伴っています。この余剰と不足の同居が顕著に現れる場所が『素材同士の切断面/境界』なのであり、その連続を通して鑑賞者の目は、作品の表面と奥行きで高速に移動=振動し亜空間への回路がつながるのです(*2)」。
*1──河本真理『切断の時代 20世紀におけるコラージュの美学と歴史』(ブリュッケ、2007)
*2──「Liminal Space」からインスパイアされた都市伝説「The Backrooms」では、現実世界での壁抜けバグによって空っぽなオフィスルームの迷路に迷い込んでしまう。この壁抜けバグとは、主にゲーム用語であり、代表的な例として操作するキャラクターが壁へと高速で衝突した時に衝突判定が行われず壁をすり抜けてしまう現象のことを言う。