2026.7.4

「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま」(TOKYO NODE)開幕レポート。デヴィッド・ボウイとの未完プロジェクトも世界初公開

東京・虎ノ門ヒルズのTOKYO NODEで、トニー・アウスラーの日本初となる大規模個展「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」が開幕した。日本初公開作品を多数紹介し、アウスラーの40年以上にわたる創作の軌跡をたどる本展をレポートする。

文・撮影:王崇橋(編集部)

展示風景より、《スペキュラー》(2021)
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 東京・虎ノ門ヒルズにあるTOKYO NODEで、アメリカを代表するメディア・アーティストのひとり、トニー・アウスラーの日本初となる大規模個展「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」が開幕した。会期は9月27日まで。

「技術と霊知のはざま」を横断する、日本初の大規模個展

 アウスラーは1980年代より、映像をスクリーンから解放し、人形や立体物、建築空間へと投影する独自の表現を切り開いてきた作家だ。映像、彫刻、音響、光を組み合わせたインスタレーションによって、テクノロジーと身体、現実と虚構、科学とオカルトといった境界を横断しながら、人間の知覚や信念のあり方を問い続けてきた。ニューヨーク近代美術館(MoMA)やポンピドゥー・センターなど世界各地で個展を開催してきたいっぽう、日本ではまとまった規模で作品を紹介する機会はこれまでほとんどなかった。

 本展では、初期作から新作まで49点を紹介。その半数以上が日本初公開となるほか、デヴィッド・ボウイ、グレン・ブランカとの共同プロジェクト《空(くう)》(2000)が約四半世紀を経て世界初公開される。また、本展のために制作された大型新作《キメラ》(2026)に加え、アウスラーが長年にわたり収集してきた3000点以上に及ぶリサーチ・アーカイブのなかから選ばれた資料も展示され、40年以上にわたる制作の軌跡を多角的にたどることができる。

デヴィッド・ボウイ、グレン・ブランカとの共同プロジェクト《空(くう)》(2000)

 共同キュレーターのアリス・ニェン=プー・コーは、本展タイトルについて、「『Tech(技術)』はテクノロジーをたんなる道具ではなく、人間の認識や創造性を拡張するものとして捉える視点を示し、『Gnosis(霊知)』は理性的・科学的知識だけではなく、経験や直感を通して獲得される知を意味します」と説明。「本展は1970年代からAI時代まで、アウスラーがテクノロジーとどのように向き合ってきたかをたどる展覧会でもあります」と、そのコンセプトを語った。

 共同キュレーターの椿玲子は、「トニー・アウスラーの作品は、『見ること』や『信じること』そのものを問い直すものです。怖い、不思議、可愛い、気持ち悪い──まずはそうした感覚をそのまま楽しんでいただければ」と来場者に呼びかけた。

《塵(ちり)》(2006)の展示風景
《穴から吊り上げられて》(2025)の展示風景

「見ること」と「信じること」を問い続ける作品群

 会場は、巨大な「眼」が暗闇に浮かぶ《スペキュラー》(2021)から始まる。大小様々な眼球が空間に点在し、その表面には絶えず映像が投影される。鑑賞者は作品を見つめると同時に、無数の視線から見返されるような感覚に包まれ、「見る/見られる」という関係そのものを身体的に経験する。椿は、「眼はアウスラーにとって非常に重要なモチーフです。それはニュースやSNSを見続ける私たち自身の姿でもあります」と説明し、作品が監視社会や情報環境への批評的な視点も内包していることを紹介した。

巨大な「眼」が暗闇に浮かぶ《スペキュラー》(2021)

 続く新作《星》(2026)は、日本の心理学者・福来友吉による「千里眼」研究や、アメリカ中央情報局 (CIA)の遠隔透視計画に参加した超能力者インゴ・スワンなどを参照した作品だ。星形の立体作品と猫の彫刻が組み合わせれており、科学と超常現象、心理学と神秘思想の境界を往還する。猫はエジプト神話の守護神であると同時に、生と死という2つの状況が同居する思考実験「シュレーディンガーの猫」や日本の妖怪である化け猫など、多様な文化圏を横断する存在として位置づけられている。

新作《星》(2026)
左から《C>o++》(2017)、《MUR(dusk)》(2022)、《isome》(2024)

 《MUR(dusk)》(2022)、《C>o++》(2017)は、ロールシャッハ・テストや顔認証アルゴリズムを題材に、人間がいかにイメージへ意味を与え、個人がデータへと還元されていくのかを提示する。《失われた時間》(1996)は、家具の下に潜り込み独白を続ける人形を通して、家庭空間のなかで形成されるアイデンティティや多重人格的な自己を示唆する作品だ。

リサーチ資料の展示やデヴィッド・ボウイとの共作も

 《計り知れないもの》(2015-16)は、空間に幽霊や立体的な幻影が浮かび上がっているように見せる19世紀の光学的なイリュージョン技術「ペッパーズ・ゴースト」を用いながら、アーサー・コナン・ドイル、ハリー・フーディーニ、霊媒師マージョリー・クランドン、そしてアウスラー自身の祖父チャールズ・フルトン・アウスラーら実在の人物をめぐる物語を描く。本展では作品とともに、心霊写真や手品道具、書簡など、アウスラーが長年収集してきたリサーチ資料の一部も展示。椿は、「作品だけでなく資料もあわせて見ることで、この物語をより立体的に理解することができます」と紹介した。

《計り知れないもの》(2015-16)の展示風景
アウスラーが長年収集してきたリサーチ資料の展示

 さらに、本展ではデヴィッド・ボウイ(1947〜2016)とグレン・ブランカ(1948〜2018)との共同プロジェクト《空(くう)》(2000)を世界初公開。1999〜2000年に構想されたものの未完成だった作品が、本展を機に初めてインスタレーションとして結実した。高さ約2.5メートルのモノリス状の立体にボウイの顔が投影され、映像、音楽、詩が重層的に交差する空間が立ち上がる。

高さ約2.5メートルのモノリス状の立体にデヴィッド・ボウイの顔が投影される《空(くう)》(2000)

 展覧会の最後を飾る《キメラ》(2026)は、本展のために制作された大型新作だ。TOKYO NODEの高さ約15メートルのドーム空間を生かし、植物や水辺、未知の生命体が漂うデジタルガーデンを構築。ネット上の噂や都市伝説、UMA(未確認動物)などをもとに生成されたキメラたちが現れ、人間の想像力とテクノロジーが交差する新たな生態系を描き出す。椿は、「AIやデジタル技術が急速に発展するいま、『キメラ』とは何なのかという問いを観客へ投げかける作品」と語った。

TOKYO NODEの高さ約15メートルのドーム空間を生かした大型新作《キメラ》(2026)

 映像をスクリーンから解放し、人間の知覚や信念のあり方を問い続けてきたアウスラー。その40年以上にわたる実践を振り返る本展は、AIや生成メディアが急速に浸透する現代において、「見ること」「信じること」「創造すること」の意味をあらためて考える機会となるだろう。