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2026.5.28

マックスマーラの服飾工場が美術館に。イタリアのコレツィオーネ・マラモッティが示す「進行形のコレクション」

イタリア、レッジョ・エミリアの旧マックスマーラ工場を改修した「コレツィオーネ・マラモッティ」では、戦後から現代に至る約200点の作品が常設展示。さらにここでは、過去の作品を保存するだけでなく、新たなコミッションや企画展を継続的に取り込んでいることも特徴だ。本稿では、建築、コレクション、そして現在開催中の企画展を取り上げながら、同館の特徴を紹介する。※5月29日24時まで、すべての方に全文お読みいただけます。

取材・文=王崇橋(編集部)

コレツィオーネ・マラモッティの外観(北口) Photo by Claudia Marini. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia
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元工場を転用した現代美術館

 イタリア北部、エミリア=ロマーニャ州レッジョ・エミリアに位置する「コレツィオーネ・マラモッティ(Collezione Maramotti)」は、ファッションブランド・マックスマーラの創業者アキーレ・マラモッティ(1927〜2005)が築いた、現代美術コレクションを公開する美術館だ。2007年に一般公開され、現在は戦後から現代に至る作品群を常設展示するほか、国際的なアーティストによる企画展やコミッション・プロジェクトも継続的に行っている。

 コレツィオーネ・マラモッティの建物は、1957年に建設されたマックスマーラ最初期の工場を改修したものだ。設計を手がけたのは、レッジョ・エミリア出身の建築家アントニオ・パストリーニとエウジェニオ・サルヴァラーニ。自然光や自然換気を積極的に取り入れた開放的な構造や、用途変更に対応可能な空間設計は、当時としては先進的な試みだった。

エントランス(東口) Photo by Bruno Cattani. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 2003年、マックスマーラの本社機能の移転に伴い、この旧工場は美術館へ転換された。改修を担当したイギリス人建築家のアンドリュー・ハップグッドは、建物の工業的性格を大きく変更することなく、コンクリート柱やガラスファサードなど既存の構造を残しながら展示空間として再構成した。

アンゼルム・キーファー《Buch (The Secret Life of Plants) 》(2002)の展示風景 Photo by Bruno Cattani. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 実際に館内を歩くと、ここが「元工場」であったことを自然に意識させられる。天井高のあるオープンスペース、大きく取られた窓面、露出したコンクリート構造。そうした要素が、ホワイトキューブとは異なる独特の空間感覚を生み出している。展示動線の中心には、イタリアのアーティスト、クラウディオ・パルミジャーニによるインスタレーション《Caspar David Friedrich》(1989)が置かれ、鑑賞者は展示を巡りながら何度かこの吹き抜け空間へ戻ってくることになる。

クラウディオ・パルミジャーニ《Caspar David Friedrich》(1989)の展示風景 © Claudio Parmiggiani Photo by Dario Lasagni. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 なお、常設コレクションの鑑賞は予約制となっており、木曜から日曜まで週4日開館。見学はガイドツアー形式で行われ、私設コレクションでありながら入館料が無料である点も、この施設の特徴のひとつと言えるだろう。

収集とコミッションを並行するコレクション

 コレクションの形成は1970年代に始まった。アキーレ・マラモッティは若い頃から芸術に関心を持ち、18歳で最初の作品を購入。その後、事業の成長とともに収集活動も拡大していった。

 現在、コレクションは約1000点となっており、そのうち約200点が常設展示されている。作品は美術館の全43室で展示されており、戦後ヨーロッパ絵画、アルテ・ポーヴェラ、トランス・アヴァングァルディア、ドイツ新表現主義、ネオ・ジオ、さらに21世紀以降の国際的実践へと続いていく。

コレツィオーネ・マラモッティの内観。中央はマーク・マンダースの作品 Photo by Cesare Di Liborio. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 館内を巡っていると、いわゆる「代表作」を集めた美術館的コレクションとは少し異なる印象を受ける。ここでは、現在では美術史的に重要な位置を占める作家たちの作品が、比較的初期の段階のものを含めて展示されているからだ。アルベルト・ブッリ、サイ・トゥオンブリー、マリオ・スキファーノ、ゲオルグ・バゼリッツ、ジャン=ミシェル・バスキアなど、現在では広く知られる作家たちの作品も、その多くは比較的早い段階で収集されたものだった。

サイ・トゥオンブリー、ガストン・ノヴェリの作品展示 Photo by Dario Lasagni. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 その背景には、アキーレ・マラモッティが作品だけでなく、アーティスト自身との関係を重視していたことがある。多くの場合、彼はスタジオを直接訪れ、作家と対話を重ねながら作品を取得していたという。そうした収集姿勢は、現在も若手・中堅アーティストによる企画展プログラムにある程度引き継がれているように見える。

 また、コレクションは現在もマラモッティ家によって継続的に拡張されている。常設展示はコレクションの核として維持されつつ、そのいっぽうで新たな作品やプロジェクトが加えられ、全体は現在進行形で更新され続けている。

トム・サックス《The Choice (Ghetto- Sculpture Park)》(2001-02)の展示風景 Photo by Bruno Cattani. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

「死後の世界」を舞台にしたンダイエ・クアグーの新作個展

 コレツィオーネ・マラモッティでは、若手・中堅アーティストによる新作制作やサイトスペシフィックなプロジェクトが継続的に行われている。企画展の多くは、この空間のために構想されたコミッション形式の展示であり、完成した作品を持ち込むというより、建築や環境そのものと関わりながら展開されるケースが多い。

 例えば、今年5月に開幕した「Heaven’s truth」(〜7月26日)は、フランス人アーティスト、ンダイエ・クアグー(Ndayé Kouagou)によるイタリア初個展だ。本展は、レッジョ・エミリアで毎年開催される写真祭「Fotografia Europea 2026」の一環として企画されたものでもあり、新作を中心とする映像、インスタレーション、壁面作品によって構成されている。

ンダイエ・クアグー《Heaven’s truth》(2026)の展示風景 © Ndayé Kouagou Photo by Dario Lasagni. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 展示タイトルにもなっている《Heaven’s truth》(2026)は、3章構成の映像作品を中心に、立体、空間演出を組み合わせて展開されるプロジェクトだ。映像内のキャラクターたちが空間へ拡張され、鑑賞者は映像を見るだけではなく、展示空間を移動しながら作品を体験する構成が取られている。

 作品には4匹の“犬”が登場する。拒絶、暴力、報復、裁きといった感情の連鎖を経て、舞台はやがて「死後の世界」へ移行する。そこでは、クアグーが扮した“裁く側”としての存在が死後の世界にいる4匹の犬を判断しながら、同時に自分自身もまた彼らの視線や評価から逃れられない状況に置かれている。

作品に登場する“犬”たち © Ndayé Kouagou Photo by Dario Lasagni. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia

 作品内で描かれる「死後の世界」は、現実とは切り離された完全な空想空間ではない。むしろそこでは、現実社会に存在する価値判断や他者評価の構造が、かたちを変えながら繰り返されている。クアグーは、「人は本当に別の社会を想像できるのか」という問いに関心を持っていると語る。

ンダイエ・クアグー《Here&Elsewhere》(2026)の展示風景 © Ndayé Kouagou Photo by Dario Lasagni. Courtesy of Gathering, London, Ibiza

 また、クアグーの作品には、「鍵」や「コイン」といった日用品が繰り返し登場する。過去作《A coin is a coin》(2022)でも、コインの表裏という単純な構造を起点に、「自由」や「権力」といった概念がどのように反転しうるのかが扱われていた。展示全体にはユーモアと不安、哲学的思索とポップな演出が混在しており、鑑賞者は物語を追いながらも、どこか足場の定まらない感覚へ導かれていく。

女性アーティストに贈られる国際的なアートアワードも

 2019年、コレツィオーネ・マラモッティでは、開館後最初の10年間に実施された企画展の一部を常設展示へ組み込む再編も行われた。エノック・ペレス、ゲルト&ウーヴェ・トビアス、ジェイコブ・カッセイ、シャンタル・ジョフィらによる展示空間が再構成され、一時的なプロジェクトがコレクションの歴史のなかへ位置づけられている。

 また、こうした活動の一環として展開されているのが、マックスマーラが主催する「Max Mara Art Prize for Women」だ。同賞は2005年に創設され、女性アーティストを対象とした国際的なアートアワードとして継続されてきた。受賞者にはイタリアでのレジデンス機会が提供され、その成果はコレツィオーネ・マラモッティおよびパートナー機関で発表された後、コレツィオーネ・マラモッティのコレクションに収蔵される。

5月7日、ヴェネチアにて行われた第10回「Max Mara Art Prize for Women」授賞式の様子 Courtesy of Max Mara Art Prize for Women

 同賞は設立以来、ロンドンのホワイトチャペル・ギャラリーと協働してきたが、今月受賞者が発表された第10回では、初めてアジア地域に焦点が当てられ、インドネシアのMuseum MACANとの協働が行われた。今後は地域を移動しながら世界各地の美術機関と連携し、女性アーティスト支援のプラットフォームとして展開していくという。

 コレツィオーネ・マラモッティの特徴は、過去の作品を保存・展示することと、新たな制作を継続的に受け入れることが、同じ流れのなかで並行して行われている点にあるだろう。館内を巡っていると、1950年代の戦後絵画から現在進行形の映像インスタレーションまでが、時間を断絶させることなく接続されていることに気づく。コレクションを固定化されたアーカイブとしてではなく、更新され続けるプロセスとして扱う姿勢は、同館の多層的な活動にも表れているように見えた。

中庭とプロジェクトスペース「パターンルーム」、夜の様子 Photo by Bruno Cattani. Courtesy of Collezione Maramotti, Reggio Emilia