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2026.4.15

「浦川大志個展 スプリット・アイランド」(福岡市美術館)会場レポート。福岡の美術史を引き継ぐ「風景」が生まれるまで

福岡市美術館で企画展「浦川大志個展 スプリット・アイランド」が開催されている。会期は3月22日まで。会場をレポートする。

文・撮影=安原真広(編集部)

本展に合わせて完成した壁画《スプリット・アイランド》(2026)
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 福岡市美術館で、アーティスト・浦川大志の美術館初となる個展「浦川大志個展 スプリット・アイランド」が開催されている。会期は3月22日まで開催されている。担当は同館学芸員の忠あゆみ。

 浦川は1994年福岡県宗像市生まれ、2017年九州産業大学芸術学部卒業。ゲームやGoogleマップの空間描写の方法を参照した空間構成と、グラデーションを貴重とした筆致により、絵画作品を中心に制作する。近年参加した展覧会に、「終わるまで終わらないよ」(熊本市現代美術館、2019))、「浦川大志 × 名もなき実昌展~異景への窓~」(大川市清力美術館、福岡、2021)、「浦川大志 × 名もなき実昌 異景の窓」(contemporary HEIS、東京、2021)、「擬風景展」(東京藝術大学大学美術館 陳列館、2022)など。15年に「第24回英展 ~半径3メートル~」優秀賞、18年に「VOCA展2018」大原美術館賞受賞。本展は浦川の創作の原点、そしてその絵画がいかなる展開をみせたのかを、実作を並べながら辿っていくものだ。

2010年代後半から2020年にかけての浦川の作品群。具象的なモチーフを「風景画」を試みていることがわかる

九州派との出会い、グラデーションの出現

 展覧会はプロローグと全5章で構成。プロローグでは、浦川が高校時代に九州派をはじめとした地元福岡のアーティストと出会い、そこから絵画制作に取り組むようになった道程が紹介されている。

 浦川の人生を変えるきっかけとなったのが、2011年に開催された本館と長崎県立美術館の共同企画展「菊畑茂久馬後/絵画」展だったという。浦川はここで出会った菊畑茂久馬の絵画、とくに「天動説」シリーズの存在感に衝撃を受けて美術にのめり込むようになる。宗像から福岡まで毎週のように自転車で通い、福岡市内のギャラリーに顔を出すようになった浦川は、九州派の作家と交流を始める。さらに若手作家を支援するために1978年に立ち上げられた「IAF芸術研究室」を母体とするギャラリー併設のカフェ「IAF SHOP*」にも出入りし、出展作家と交流していった。なかでもIAF SHOP*に出入りしていた江上計太は、浦川の絵画の師ともいえる存在だったという。

左が江上計太《ホワイトヘブン》(2000年代)と菊畑茂久馬《天動説》(1983)。両者ともに浦川に大きく影響を与えたアーティスト。いずれも浦川が所蔵するコレクションから

 第1章「予兆から風景へ」では、浦川の作品の特徴である「グラデーション」がどのように発生したのかを辿る。九州産業大学の美術学科に入学した浦川は、美術の話ができる同志が少ないことに希望を持てず、東京など福岡以外の展覧会に活路を求めるようになる。さらに浦川はこの抽象をより「風景」として表現するようになっていく。

左から《机上の憂鬱》(2015)、《予兆》(2014)。まだグラデーションを前面に押し出していない時期の作品
左から《Carnival》《親子》(ともに2015)。具象的なモチーフに明確なグラデーションが生まれている

 第2章「風景と幽霊と画像」は、浦川の「風景」への造詣が深まっていく過程を紹介する。大学卒業後の浦川は、ウェブ・ディレクターの職を得ながら、寝る間を惜しんで絵画制作を続けていく。この時期、浦川はインターネットやデジタルデバイス上の画像に「風景」を見出すようになる。バックライトで照らされた液晶のドットのような、輪郭の曖昧なイメージを連続させていく。実在せずとも「風景」として眼差されることで、たとえ液晶上のイメージでも「風景」になる。そんな根源的な問いかけがここに発生している。

左から《風景と幽霊》(2017)、《風景、その後》(2018)。タイトルに明確に「風景」が現れることからもわかるように、デジタル上の風景を強く志向するようになった時期の作品

 第3章「複数の断片たち」では、密度が高まり、モチーフの複雑な重なりを見せるようになった2020年前後の浦川の作品を展示。2枚の絵画を1対にし、そこに表した反復に左右で差異を発生される「LandScape」シリーズはその典型といえるだろう。そこにある差異は「風景」に時間の経過のイメージを与えているように感じられる。

左から《Landscape #1》《Landscape #2》《Landscape #3》《Landscape #4》。対になった2枚の絵画に差異が発生していることで、時間性が見出だせる

他者との影響関係により広がる作風

 第4章「合作と協働」は、浦川が他者との対話を通じて生まれた作品を紹介する。浦川は長谷川白紙をはじめとしたミュージシャンのアルバムのジャケットを描いてきた。これらはコミッションワークとして制作されており、実際にアルバムを聴いた浦川が、その楽曲の曲調を平面に落とし込むことを試みたという。長谷川のアルバム『エアにに』(2019)のジャケットとなった同名作品を見つつ、楽曲を聴いてみるのもいいだろう。

長谷川白紙『エアニニ』のジャケットとして制作された《エアニニ》(2019)。松のモチーフ、グラデーション、キャラクターの断片と、この時期の浦川が多用するモチーフがコンパクトに集約されている

 また25年の夏には、滋賀県の信楽で、美術家の梅津庸一との共作絵画に取り組み、さらに梅津の勧めにより、版画工房カワラボの協力で銅版画を制作。浦川が用いるアクリル絵具と絵筆とはまったく異なる、制御の難しい技法に向き合うことで自身の表現を広げようとしていった。

第4章「合作と協働」。梅津庸一との共作絵画や浦川の所蔵作品コレクションなどが展示されている

 本章では浦川が買い集めた絵画のコレクションも展示されている。菊畑茂久馬、オチオサム、塩見允枝子、山内祥太、横山裕一、ライアン・ガンダー、Chim↑Pom from Smappa!Group、藤城嘘、布施琳太郎といったコレクションからは、制作とはまた異なるかたちでの浦川の絵画への執着を見て取れる。

展示されている浦川の作品コレクション。作品リストもあり、浦川がどのようなアーティストに興味を持ってきたのかを知ることができる

新たな風景画をめぐって

 最後の第5章「風景画を更新する」は、今後の制作を指し示すような新作群で幕を閉じる。大作《セクションとしての世界(仮題)》は、PC上の画面のレイヤーのように黄色い矩形が背景に重なり、そこに緑や青が配されている。この緑や青は、浦川がコレクションする民藝の器や九谷焼の色彩を引用したものであり、伝統的な色彩を要素として取り入れようとする浦川の新たな姿勢を感じることができるはずだ。

大型の新作《セクションとしての世界(仮題)》(2026)。浦川がこれまでメインの配色としてあまり用いてこなかった黄色が、本作では強く主張している

 さらに、本展に際して浦川は同館の13メートルの空間に、壁画《スプリット・アイランド》を公開制作した。巨大な画面を区切るようにいくつもの画面が並ぶ本作は、16世紀の豊臣秀吉による太閤町割の際に、戦禍で荒廃した街から集められた瓦や焼き石でつくられた「博多べい」を意識しているという。博多という都市のイメージに、浦川が向き合った過程が見て取れる。

完成した壁画《スプリット・アイランド》。壁面を分割する「博多べい」を意識した明確な境界線は、木枠を使い直線を強調するように描かれた

 作家としての足場を固めようとする浦川のこれまでの歩みと現在地を示すことになった美術館初個展。とくに九州派からの影響、そして福岡のアートスペースでのアーティストたちとの交流といった、福岡という地場が浦川というアーティストをいかに育ててきたのかが提示されていることは興味深い。それを浦川が自身のアイデンティティとしてとらえ、福岡のモチーフを画面に出現させていった過程がよくわかる。こうした個人史の断片の前景化が進むことが、浦川の「風景画」になにをもたらすのか。見届けたくなる個展となっていた。