2025.10.17

「オスジェメオス+バリー・マッギー One More 展」(ワタリウム美術館)開幕レポート。即興的なコラボレーションが生み出したものとは

東京・外苑前にあるワタリウム美術館で「オスジェメオス+バリー・マッギー One More 展」が開幕した。会期は2026年2月8日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

4階の展示風景より、4面LEDで覆われた鏡張りのアニメーションルームの中の様子
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 東京・外苑前にあるワタリウム美術館で、「オスジェメオス+バリー・マッギー One More 展」が開幕した。会期は2026年2月8日まで。

 本展は、アーティストであるバリー・マッギー(1966〜)と、ブラジル・サンパウロ生まれの双子のアーティストデュオ・オスジェメオス(1974〜)による世界初のコラボレーションとなっている。

 バリー・マッギーは、1966年サンフランシスコ生まれ。92〜97年の間には、サンフランシスコ芸術基金やそのほかのコミッションワークとして、市内各所にて壁画制作を行った。1998年サンフランシスコ近代美術館で巨大な壁画を発表し、同館のコレクションに選定され、さらに2001年ベニス・ビエンナーレで世界最大の壁画のインスタレーションを制作。また「TWIST」というタグ名でグラフィティ・アーティストとしても活躍しており、そこではストリートで生きる人々をテーマに制作を続けている。

 オスジェメオスは、1974年ブラジル・サンパウロに生まれた双子のアーティストデュオ。ヒップホップカルチャーと現代アートに夢中になったことがアーティスト活動のきっかけとなっており、ダンス、音楽、壁画運動、ポップカルチャーの影響を受け、唯一無二のスタイルを築き上げた。近年のプロジェクトとして、昨年から約1年間にわたりワシントンのハーシュホーン美術館で行われた大規模個展などが挙げられる。

左右がオスジェメオス、中央がバリー・マッギー

 そんな2組は、1993年にサンパウロでのアーティスト・イン・レジデンスで出会った。以来30年以上に渡って交流を続けており、今回初めてともに展覧会を開催するに至った。本展は、ドローイング、絵画、彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、ビデオアートなど、様々な表現方法を横断しながら、2組のアーティストが即興で音を奏でるかのように空間をつくり上げたものとなっている。

 同館内の各フロアで多数の作品が展開されているが、まず目に飛び込んでくるのは2階にある大きな壁画だ。同館の特徴である巨大な壁が、2組のアーティストによる作品で埋め尽くされている。壁の中央に描かれたキャラクターはオスジェメオスによるもので、その両脇に抱えられるように描かれた2つの顔はバリーが描いたもの。コラボレーション方法は事前に決められてはおらず、約10日前に会場入りした2組が、まさにその場で即興的に生み出していった作品ばかりだ。本作もそのひとつである。

2階の展示風景より
2階の展示風景より
2階の展示風景より

 同じく2階の一角には、街の一部としてレコードショップのインスタレーションが登場。 2組の作品は音楽との強い結びつきがあることから制作された作品だ。本作は企画段階から構想されていたもので、ショップを模した空間のなかに並べられているレコードの一部は、日本のフリーマーケットをまわって集めたものだという。会期中、来場者は自分の好きなレコードを選び、その場で音楽をかけることもできる(ただし持ち帰りは厳禁)。

2階の展示風景より、レコードショップのインスタレーション
2階の展示風景より、レコードショップのインスタレーション
2階の展示風景より、レコードショップのインスタレーション

 続いて3階には平面作品やブラウン管テレビを用いた作品が展開される。本フロアに展示されているのは、基本的にバリーの作品となっている。窓からは、2階から見上げた壁画を別の角度から見ることができるため、また違った印象を受けるとともに、その大きさに改めて驚かされる。

3階の展示風景より
3階の展示風景より
3階の展示風景より、窓から壁画を見たときの様子

 そして4階には、4面LEDで覆われた鏡張りのアニメーションルームが現れる。この空間の中で2組の作品が無重力に飛び回り、宇宙空間にいるような錯覚を生み出す試みだ。鑑賞者は空間内に入ることができ、永遠に続く2組のアーティストの世界観に迷い込んだかのような感覚を覚える。オスジェメオスはもともと日本のアニメーションが好きだったことから、日本で開催される本展にあわせて、アニメーション作品に挑戦したという。

4階の展示風景より、4面LEDで覆われた鏡張りのアニメーションルーム。この中に入ることができる
4階の展示風景より、4面LEDで覆われた鏡張りのアニメーションルームの中の様子

 会場は屋外にも拡張されている。同館の向かいは空地となっているが、その屋外スペースに大きな壁面が仕立てられ、2組のコラボレーション作品が展示されている。

展示風景より、屋外に設置された作品

 本展の開催は、現地で即興的に決めることも多かったことから、2組のアーティストによる考え方や価値観の調整が不可避であった。しかしオスジェメオス曰く、「長年の仲であり、まるで家族のような間柄だからこそスムーズに調整が進んだ」。出会った当時と同じように、夜中まで作業を続けるハードな状況すら、ともに楽しみながら乗り越えたという。

 まるで家族のように親しい関係を築く2組のアーティスト、そしてそのアーティスト同士の関係や活動を信じてサポートを行う同館があったからこそ実現した本展。会場のどこにどちらの作品があるのか一見するだけではわからない構成こそ、その3者の一体感を物語るもののように感じる。ぜひ様々な角度から2組のアーティストのコラボレーションを覗き込み、いまここでしか見られない、会場内で起きている化学反応を目の当たりにしてほしい。