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2025.7.19

特別展「江戸☆大奥」(東京国立博物館)開幕レポート。秘密に満ちた大奥の、実際の姿が明らかになるとき

東京・上野の東京国立博物館 平成館で、特別展「江戸☆大奥」が開幕した。会期は9月21日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京・上野の東京国立博物館 平成館で、江戸時代に築かれた「大奥」の歴史と文化を紐解く特別展「江戸☆大奥」が開幕した。会期は9月21日まで。

 本展では、NHKドラマ10「大奥」で用いられた衣装や「御鈴廊下」のセットを再現するいっぽう、実際にあった江戸時代における大奥の見取り図を表す絵図、武家女性の衣装なども展示され、ドラマや映画で描かれる大奥と実際の大奥を比較しながら、大奥の本当の姿について理解を深められる機会となっている。

 本展は全4章構成となっている。第1章の「あこがれの大奥」では、人々が大奥に対して様々なかたちで抱いてきたあこがれに着目した内容となっている。大奥は限りなく閉じられた世界であったため、いままでほとんどその実際の姿を人々に知られる機会はなかった。しかしだからこそ、人々の間ではその隠された美しい大奥という存在に、あこがれを抱くことができたのだ。本章は、江戸時代から現代にいたるまで、庶民があこがれた大奥の様子を比較する構成となっている。

展示風景より

 会場を入るとすぐに、NHKドラマ10で放映された「大奥」に使われた衣装が並ぶ。その奥には実際撮影に使われた長い御鈴廊下のセットが立ち上がっており、現代に続く大奥に対するイメージが、会場全体を使って展開されている。

展示風景より、NHKドラマ10「大奥」の衣装
展示風景より、御鈴廊下のセット

 また、本章では、十一代将軍徳川家斉時代の大奥をモデルにしたとされる、全40場面で展開される錦絵「千代田の大奥」も展示されている。本作は明治期につくられたもので、その当時より、人々は大奥へ思いを募らせていたことがわかる。本作は展示期間中通期でみることができる。

展示風景より、《千代田の大奥》 楊洲周延筆 明治27~29年(1894~96) 東京国立博物館

 第2章「大奥の誕生と構造」は、第1章とはうって変わり、実際の資料をもとにした大奥の本当の姿を明らかにするものとなる。

 「大奥」の礎を築いたと言われる春日局(斎藤福)らを紹介しながら、当時大奥の中で絶大な政治的権力を握り栄枯盛衰を見てきた女中たちにも焦点が当てられる。

展示風景より、《春日局坐像》 木造、彩色、玉眼 江戸時代 17世紀 京都・麟祥院(京都市)

 現代に遺された文書や絵図からは、大奥を含む実際の江戸城の本丸内の構造を知ることができる。江戸城の本丸は「表」「中奥」「大奥」にわかれていたが、同館が所蔵する「江戸城本丸大奥総地図」には、さらに大奥内部が細かく描かれている。将軍正室が住んでいた御殿向は黄色、役人が過ごす広敷向は橙色、女中が暮らす長局向は赤色と色分けされ、よく知られる御鈴廊下が、実際に大奥のどこに位置していたのかも、この資料から見つけることができる。

展示風景より、《江戸城本丸大奥総地図》 紙本着色 江戸時代 19世紀 東京国立博物館

 本章で取り上げられている御年寄の存在も興味深い。女中といっても、そのなかの最高位に位置するで御年寄は圧倒的な権力と財力をもっていた。代わりに結婚することはなく、さらに大奥の情報を表に出さないために生涯江戸城から出てはいけないというルールが課せられていた。彼女たちの存在からも、大奥という秘められた世界の一端をみることができるだろう。

 展示は第2会場へ続く。第3章「ゆかりの品は語る」では、閉ざされた大奥での生活のなかで、気丈に生きた歴代大奥のヒロインが取り上げられている。

 例えば、三代将軍徳川家光の側室であり、のちの五代将軍綱吉を産み育てた人物である桂昌院(お玉の方)は、もとは京都の八百屋の娘だった。しかしあっという間に高い地位を得ることになり、そのさまが「玉の輿」という言葉の由来にもなっている。会場では桂昌院の紹介とともに、息子である綱吉所用とされる長裃(ながかみしも)も展示されている(前期のみ)。

展示風景より、《長裃鶸色麻地松葉小紋》 伝徳川綱吉所用 平織(麻)、型染 江戸時代 18世紀 東京国立博物館

 また本章では、綱吉が側室である瑞春院にあてて、年中行事の祝い事にあわせた贈り物の上に掛けて送ったといわれている、重要文化財である奈良・興福院の刺繡掛袱紗全31枚が公開されている。色とりどりの袱紗には、これでもかというほどの祝言やめでたいモチーフが刺繍されている。前後期含めて31枚すべてを見ることができる稀有な機会だ。

展示風景より
展示風景より、《刺繡掛袱紗》 瑞春院(お伝の方)所用 江戸時代 17〜18世紀 奈良・興福院(奈良市)

 そして第4章「大奥のくらし」は、婚礼調度品や生活用品、遊び道具などから大奥のなかでの暮らしを紐解く内容となっている。初めに注目されているのは、大奥内に入るための輿入れ。入ってからはほとんど外に出ることのできない大奥に、女性たちはどのようなかごに乗って、どのような道具を持ち、どのような様子で入っていったのかが明らかとなる。

 会場には、綱吉の正室となった浄光院(鷹司信子)が乗ってきた女乗物が展示されている。美しい模様で装飾された豪華なお籠に乗って大奥へと入ってきた浄光院は、このなかで何を考えていたのだろうか。

展示風景より、《竹葵牡丹紋散蒔絵女乗物》 浄光院 (鷹司信子)所用 江戸時代 寛文4年(1664) 東京国立博物館

 ほかにも、大奥にいた女性の服装が季節ごとに展示されている。火事が頻繁に起きた江戸城本丸においては、武家女性は火事装束をまとうこともあった。本展では特別に、マネキンの着付け展示によってその姿を見ることができる。

展示風景より
展示風景より

 また本章では、大奥内での娯楽についても紹介されている。当時江戸では歌舞伎が流行していたが、もちろん外に出ることができないため、彼女たちは大奥のなかで歌舞伎を見られるようにした。しかし大奥には女性以外立ち入りができないため、女性の歌舞伎役者が出入りしていたという。

 本展では、坂東三津五郎に弟子入りした女性歌舞伎役者の坂東三津江の、歌舞伎衣装が初めて一挙公開されており、大変貴重な機会となっている。

展示風景より

 長年秘密に満ちていた大奥の、その本当の姿が明らかになってきたいま、我々は大奥に対して何を感じるだろうか。大奥で生きた女性は架空の存在ではなく、確かに生きていたひとりの人間なのだと認識するとき、自身の見え方にどのような変化が起こりうるか、ぜひ会場で確かめてみてほしい。