2025.7.10

鳥が棲む色絵の世界。菊池寛実記念 智美術館で「鳥々 藤本能道の色絵磁器」展が開催中

カワセミ、ウズラ、ヒヨドリ、雀、インコ、木の葉ずく。遠近感ある写実的な文様表現で、鳥のいる風景を白磁に描き出した藤本能道(1919~1992)。その表現の深化と技術の関係にせまる展覧会「鳥々 藤本能道の色絵磁器」展が、東京・虎ノ門にある菊池寛実記念 智美術館で開催されている。

展示風景より
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 色絵磁器とは白磁の上に色絵具で文様を描いたやきもののことを云う。藤本能道(ふじもと・よしみち、1919~1992)は、写実的で奥行のある色絵を追求し、1986年に色絵磁器の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。平面的な文様ではなく、絵具の濃淡でモチーフを立体的に描き、そのモチーフの背景に水彩画のような淡い景色を表すことで器の奥へと広がる遠近感ある独自の色絵表現を生み出した。

展示風景より

 東京美術学校(現・東京藝術大学)で工芸図案を学んだ藤本は、実技を身に着けるため卒業後に同じ敷地内に設置されていた文部省工芸技術講習所に入所し、後に色絵磁器で重要無形文化財保持者となる富本憲吉と加藤土師萌の指導を受け陶芸の道に進んだ。実家はやきものとかかわりがなく、1943年に講習所を卒業した後は、個人の制作を続けながら富本の助手、陶磁器デザイナー、あるいは指導者として、東京から岐阜、京都、和歌山、鹿児島など各地を転々としていく。京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)に勤務していた時代には走泥社やモダンアート協会に参加しオブジェ陶で注目されるも、1962年に東京藝術大学助教授に就任以降は、環境を整えながら徐々に色絵に専心していった。

展示風景より

色絵翡翠文八角筥 1979 6.6×19.0×19.0㎝
撮影=渞忠之

 写実的な文様を可能にしているのは、絵具や描法にもたらした技術革新だ。藤本は、それまで原色のみの表現であった色絵に、九谷焼に用いられる五彩、赤、黄、緑、紺青、紫色の絵具を混色することによって中間色を生み出した。

 複雑な色彩を駆使し、絵具の濃淡で立体的に描き出される鳥の文様。その背景には「釉描加彩(ゆうびょうかさい)」と名付けた独自の描法で、色絵の層の下に器の奥へと広がる風景が描かれる。

雪白釉釉描色絵金彩五位鷺図扁壷 1990 32.6×30.2×18.7㎝
撮影=渞忠之
雪白釉釉描色絵鶉図四角隅切筥 1990 7.0×25.9×26.2㎝
撮影=渞忠之

 現代の陶芸を専門にする同館のコレクションにおいて、質、数ともに重要な位置を占めるのがこの藤本の作品であるという。創設者の菊池智(きくち・とも、1923~2016)との親交によって形成されたコレクションには、1974年以降、充実期に制作された色絵磁器作品を中心に約130件が収蔵されている。

 本展では、1974年から最晩年までの作品を紹介し、藤本の色絵における表現と技術の関係にせまる。

霜白釉釉描色絵金銀彩炎と蛾図扁壷 1991 26.0×24.8×16.0㎝
撮影=渞忠之
展示風景より