2025.12.4

1位はガーナの作家イブラヒム・マハマ。2025年アート界の「Power 100」ランキングが発表

世界のアート界に影響を与えた人物を選出する『ArtReview』誌の「Power 100」2025年版が発表された。今年はアーティストによる制度構築の動きやグローバル・サウスの台頭、湾岸諸国の文化投資の加速など、アートエコシステムの変化を象徴する結果となった。

ArtReview「Power 100」2025年版のトップ10 出典=ArtReviewのウェブサイトより

 アート界の影響力ある人物を選出する『ArtReview』誌の年次ランキング「Power 100」の2025年版が発表され、ガーナ出身のアーティスト、イブラヒム・マハマが首位を獲得した。昨年14位から大きく順位を上げ、アフリカ大陸出身者として初めてトップに立った。

 マハマは、ココア産業の廃棄布やジュート袋を縫い合わせた巨大な布作品を建築物に覆いかぶせるインスタレーションで知られる。アーティストとしての活動に加え、ほかの作家を支援するためのインフラを自ら構築してきた点も高く評価され、今回の首位につながった。

 本年度のトップ10には、マハマと同様に「制度づくり」に取り組むアーティストが多く名を連ねた。例えば、エジプトのワエル・シャウキー(4位)は来年2月に初めて開催されるアート・バーゼル・カタールのディレクターを務め、シンガポールのホー・ツーニェン(5位)は第16回光州ビエンナーレの芸術監督を担当する。

 また、マーク・ブラッドフォード(12位)、インカ・ショニバレ(14位)らはレジデンス施設を設立し、ヴォルフガング・ティルマンス(10位)、シアスター・ゲイツ(16位)、マリーナ・アブラモヴィッチ(28位)らはアートセンターや学校の運営に取り組むなど、従来の枠組みを超えた活動が評価されている。

 いっぽうで、近年文化投資を加速させる湾岸諸国の影響力が増している。シェイカ・アル=マヤッサ・ビン・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニー(2位/カタール・ミュージアムズ会長)、フール・アル・カシミ(3位/シャルジャ美術財団創設者、シャルジャ・ビエンナーレ ディレクター)、バドル・ビン・アブドラ・アル・サウド(21位/サウジアラビア文化大臣)らが上位に入り、カーボン依存型経済からの脱却と国家ブランド戦略の一環として文化分野に巨額投資を行う湾岸地域の存在感が、世界のアートエコシステムを大きく変えつつある。

 また、美術館・ギャラリーのあり方も転換点を迎えている。欧米の伝統的アートセンターでは資金難やプログラムの停滞が見られ、ミッドレベルギャラリーの閉廊や大手ギャラリーの収益減も深刻化している。この市場環境を反映し、ギャラリストの順位は軒並み下落した。アイワン・ワース、マニュエラ・ワース&マーク・パイヨ(ハウザー&ワース)は昨年28位から57位へ、デイヴィッド・ツヴィルナーは38位から67位へ、ラリー・ガゴシアンは35位から79位へ、マーク・グリムシャーは51位から84位へと順位を落とした。

 そのいっぽうで、ミウッチャ・プラダ(32位)、ベルナール・アルノー(56位)、フランソワ・ピノー(58位)ら著名パトロンは、仲介者を挟まずアーティストに直接支援を行う流れを加速させている。

 日本勢は例年同様2名が選出されたが、いずれも大幅な順位アップとなった。森美術館館長の片岡真実は62位から33位へ、アート・ウィーク東京(AWT)共同創設者の蜷川敦子は85位から62位へと躍進した。

 片岡については、森美術館での「マシン・ラブ」展藤本壮介の回顧展に加え、サウジアラビアの光の祭典「ヌール・リヤド2025」のアーティスティックディレクションを手がけた点が高く評価された。2027年ヘルシンキ・ビエンナーレの共同キュレーター就任など、国際的活動の広がりも指摘されている。

 蜷川は、アートフェアの代替モデルとして注目されるAWTの成功が評価された。昨年は5万人が参加し、東京のアートシーンのハブとして確固たる地位を築いた。自身のギャラリーTake Ninagawaでも大竹伸朗やテア・ジョルジャゼらの展覧会を手がけ、国際的な信頼を確かなものにしている。

 『ArtReview』の「Power 100」は、世界各地の約30名の専門家によるパネルが、(1)過去12ヶ月の活動、(2)現在のアート動向への影響、(3)グローバルなインパクト、という基準で候補者を選出する。今年のランキングは、制度変革が進む世界のアート界において、アーティストの役割の変容と、アートが担うべき力の現在地を鋭く映し出す結果となった。