2025.5.30

国際芸術祭「あいち2025」、プログラム全体概要を発表

国際芸術祭「あいち2025」のプログラム全体概要が、5月30日の記者会見で発表された。会期は9月13日〜11月30日の79日間。「灰と薔薇のあいまに」をテーマに、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなかを主会場に、現代美術、舞台芸術、ラーニングなど多様な取り組みが展開される予定だ。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ムルヤナ Sea Remember 2018 Collection of Paulus Ong
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 国際芸術祭「あいち2025」が、5月30日に記者会見を行い、会期中に展開される現代美術、パフォーミングアーツ、ラーニングの全体プログラム概要を発表した。

 同芸術祭は、2010年より3年ごとに開催され、今回で第6回を迎える。現代美術を基軸としながら、パフォーミングアーツやラーニングなども含む複合型の芸術祭として発展してきた。今回の芸術祭は、「灰と薔薇のあいまに」をテーマに、79日間にわたって開催される。主な会場は、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなかなど県内各所に広がり、国際的にも注目されるアートイベントとなっている。

 芸術監督には、シャルジャ美術財団理事長であり、国際的に活躍するフール・アル・カシミが就任。彼女のディレクションのもと、「人間と自然の関係」「戦争と記憶」「資源と権力構造」など、現代社会の本質に迫る視点から多様なプログラムが展開される。

世界22の国と地域から61組が参加

 現代美術展では、世界22の国と地域から61組のアーティストが参加。愛知芸術文化センターでは、インドネシアのムルヤナやレバノンのダラ・ナセルによる大規模なインスタレーション、写真家・杉本博司の大判写真作品などが予定されている。ハワイ出身のソロモン・イノスは、壁画作品を展示するほか、子供たちと協力して新たな壁画を制作するプロジェクトも展開する。

ダラ・ナセル Adonis River 2023
Commissioned by the Renaissance Society, University of Chicago, with support from the Graham Foundation and Maria Sukkar; courtesy of the artist
ソロモン・イノス MMMRRRZZZMMM 2019

 また、愛知県陶磁美術館では、ナイロビとアメリカを拠点に活動するワンゲシ・ムトゥのセラミックや映像などを組み合わせた大作が同館のエントランスで展示。アメリカのシモーヌ・リーがアフリカで採取した素材を用いた陶器作品、秋田在住の画家・永沢碧衣が野生動物との関係を独自の視点からとらえた作品、ガーナとイギリスを拠点とするアーティストグループ「ハイブ・アース」による版築構造を用いた建築的展示など、幅広い表現も見どころだ。

ワンゲチ・ムトゥ Sleeping Serpent 2014
Courtesy of the Artist and Victoria Miro London
ハイブ・アース Eta’Dan Wall for Sharjah Archietecture Triennal 2023
Photo by Sharjah Architectural Triennial

 瀬戸市内では、元温泉施設や商店、小学校など地域の建物を活用した展示が行われる。アル・カシミは、「今回、瀬戸市では街全体を会場とし、来場者の皆さまが町を歩きながら、様々な場所でアーティストの作品に出会えるような構成としている」と述べている。

 佐々木類は、ガラスと植物を用いた繊細なインスタレーションを旧温泉施設で発表。沖潤子は、刺繍を通して母との記憶や戦争体験に向き合う作品を無風庵にて展示予定。マイケル・ラコウィッツは、歴史的建造物への関心を反映したインスタレーションを梅村商店にて展開する。

佐々木類 植物の記憶:Subtle Intimacy (2012-2022) 2022
Photo by Yasushi Ichikawa
沖潤子 anthology 2023
FUJI TEXTILE WEEK, Photo by Kenryou Gu
マイケル・ラコウィッツ The invisible enemy should not exist (Lamassu of Nineveh) 2018
Photo by Gautier DeBlonde © Courtesy of the Mayor of London

 瀬戸市美術館では、メキシコ出身のミネルバ・クエバスによる壁画作品が展示されるほか、美術館前の噴水エリアには、シェイハ・アル・マズローによる屋外インスタレーションが設置される予定だ。

ミネルバ・クエバス The Trust 2023
Courtesy of Kurimanzutto Mexico, New York
シャイハ・アル・マズロー Accordion Structure 2022

 瀬戸市新世紀工芸館では、チュニジアに伝わる女性による伝統的な人形文化をテーマに、セルマ&ソフィアン・ウィスィによる作品が展示。また、漫画家panpanyaは、瀬戸を題材としたオリジナル漫画を制作し、松千代館で展示を行う。そのほか、瀬戸市内のポップアップスペースでは、冨安由真によるインスタレーションが展開され、旧瀬戸市立深川小学校では、アドリアン・ビシャル・ロハスが先史時代から未来に至る時間軸を通して歴史と記憶を再考するインスタレーションを発表する。

panpanya 「家の家」(7/8ページ)単行本『商店街のあゆみ』 2022
所収
冨安由真 The Doom 2021
撮影=西野正将 Courtesy of Art Front Gallery

 さらに、加仙鉱山株式会社の協力により、実際の鉱山施設を会場として使用する試みも行われる。オーストラリア出身でアボリジニのルーツを持つロバート・アンドリューが、鉱山や土地の歴史に根ざした作品を展開する予定となっている。

ロバート・アンドリュー Presence 2019
Installation view: ‘Presence’ IMA Belltower. Courtesy of the artist and Milani Gallery, Brisbane

舞台芸術では9作品を上演

 パフォーミングアーツ部門では、日本国内から4作品、海外から5作品の計9作品を上演。芸術祭のテーマに基づき、人間性の回復や記憶の継承、身体性の再解釈といった視点から構成される。

 サモア系のニール・イェレミア率いるブラック・グレースは、南太平洋の楽園イメージの裏側に潜む真実を問う《Paradise Rumour》を披露。金滿里が率いる「態変」は、AIが浸透する現代社会のなかで、身体そのものの価値を問う新作を上演する。

ブラック・グレース Paradise Rumour 2023
Photo by Toaki Okano
態変 Photo by Hikaru Toda

 また、アーティスト・コレクティブ「オル太」による女性と労働を主題とした劇場作品、北海道出身の音楽家・現代美術家であるマユンキキとそのユニット「マユンキキ+」によるアイヌの歴史と鉄道開通に関わる祖父の足跡をたどる公演も注目される。

オル太 生者のくに 2021
撮影=前澤秀登

 そのほか、チュニジアのアーティストデュオ、セルマ&ソフィアン・ウィスィによる動物と共演するダンス《Bird》、AKNプロジェクトによる沖縄の記念碑的作品《人類館》の現代的再演、コンゴ出身のフォスタン・リニエクラによる《My body, my archive》、クラブ空間を舞台にパレスチナの現状を可視化するバゼル・アッバス&ルアン・アブ・ラーメのインスタレーションパフォーマンスなど、多彩な作品が予定されている。

セルマ&ソフィアン・ウィスィ Bird 2023
Photo by Pol Guillard
AKNプロジェクト 喜劇 人類館 2022
撮影=小高政彦
バゼル・アッバス&ルアン・アブ゠ラーメ May amnesia never kiss us on the mouth: only sounds that tremble through us 2020–22
Photo by Christian Øen © Astrup Fearnley Museet, 2023 *に続く

*──Installation view of May amnesia never kiss us on the mouth: only sounds that tremble through us, 2022, Basel Abbas / Ruanne Abou-Rahme. An echo buried deep deep down but calling still


学びの場を広げるラーニングプログラム

 ラーニング部門では、誰もが参加できる芸術祭を目指し、来場者が自由に立ち寄れる「ラーニングセンター」を愛知芸術文化センターおよび瀬戸市内に設置。展示情報の提供や休憩スペースとして機能するほか、ボランティアの拠点ともなる。

愛知芸術文化センター

 ボランティアプログラムでは、会場運営サポートや対話型鑑賞ツアーに加え、新たに「ラーニングボランティア」枠を設け、参加者が主体的に学び合える場を提供。また、ベビーカーツアーや筆談ツアーなど、アクセシビリティに配慮した企画も継続する。

 加えて、会期前から展開する「ラーニング・ランニング」では、レクチャーやワークショップを通じて、ラーニングそのものを考える試みも行われる予定だ。

瀬戸市

「地域と世界」「記憶と未来」をつなぐ芸術祭へ

 今回の「あいち2025」は、テーマである「灰と薔薇のあいまに」のもと、過去の記憶と未来への希望を交錯させ、ローカルとグローバルの架け橋となるような多様なプログラムが展開される。

 芸術監督のフール・アル・カシミは「歴史、自然、社会をめぐる問いに多層的に応える芸術祭にしたい」と述べており、ジャンルを横断し、広域にわたる展示・公演を通して、芸術の新たな可能性を愛知から発信していくことを目指す。