2026.6.10

安藤忠雄建築と霧の対話。中谷芙二子がパリで新作インスタレーションを発表

霧を素材とした独自の表現で知られる中谷芙二子が、パリのブルス・ドゥ・コメルスで新作《Cloud #07156》を発表。安藤忠雄設計のロトンド空間を舞台に、光や空気、人の動きとともに変化する霧の彫刻が出現する。

中谷芙二子《Cloud #07156》(2026)の展示風景 Bourse de Commerce – Pinault Collection, Paris, 2026 © Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, agence Pierre-Antoine Gatier. Photo by Nicolas Brasseur
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 フランスを代表するアートコレクター、フランソワ・ピノーによる私設美術館ブルス・ドゥ・コメルスで、アーティスト・中谷芙二子による新作インスタレーション《Cloud #07156》(2026)が公開された。会期は9月14日まで。

 中谷芙二子は1933年、札幌生まれ。物理学者で人工雪の研究者として知られる中谷宇吉郎を父に持ち、1960年代後半から芸術とテクノロジーの融合を探求してきた。1967年にはアーティストとエンジニアによる国際的な実験組織E.A.T.(Experiments in Art and Technology)に参加し、1970年の大阪万博ではペプシ館を包み込む世界初の「霧の彫刻」を発表。その後半世紀以上にわたり、人工霧を用いた表現を発展させ、公共空間や美術館で数多くのプロジェクトを実現してきた。近年もテート・モダンやサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)などで大規模インスタレーションを発表するなど、環境と知覚の関係を問い続けている

 本展は、同館で開催中の企画展「Clair-obscur(明暗)」の一環として実現するもので、キュレーションはピノー・コレクション館長のエマ・ラヴィーニュが担当する。安藤忠雄が改修設計を手がけたロトンド空間に合わせて発表された新作では、天窓から光が差し込む円形空間のなかで、白い霧が絶えずかたちを変えながら立ち現れ、来場者の動きや空気の流れによってその姿を変容させる。

天窓から光が差し込む円形空間のなかで、白い霧が絶えずかたちを変えながら立ち現れる Bourse de Commerce – Pinault Collection, Paris, 2026 © Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, agence Pierre-Antoine Gatier. Photo by Nicolas Brasseur

空間を可視化する「霧の彫刻」

 中谷にとって霧は、普段は目に見えない空気の動きや空間そのものを可視化するための素材だ。人工的に生成された霧は、高圧ポンプと特殊なノズルによって20〜30ミクロン程度の微細な水滴を発生させることで生み出される。その粒径は自然界の霧とほぼ同じであり、中谷は長年にわたり「人工的な手法によって自然の霧を再現する」試みを続けてきた。

 また中谷は、自身の作品を「風との対話」と表現している。霧の彫刻は固定されたオブジェではなく、風や湿度、人の移動といった環境条件によって絶えず変化する体験として存在する。《Cloud #07156》というタイトルに含まれる数字も、ブルス・ドゥ・コメルス近郊の気象観測所のコードに由来しており、作品が特定の場所と結びついていることを示している。

安藤忠雄によるコンクリートの円筒建築とも対話を試みる本作 Bourse de Commerce – Pinault Collection, Paris, 2026 © Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, agence Pierre-Antoine Gatier. Photo by Nicolas Brasseur

 本作は、安藤忠雄によるコンクリートの円筒建築とも対話を試みる。安藤は建築を「自然と人間がせめぎ合いながら共存する場」と捉えてきたが、中谷の霧はその空間に一時的な不透明性をもたらし、建築が本来持つ光や時間の変化を強調する役割を果たす。ロトンド中央に立ち上がる霧は、視界を遮りながらも新たな知覚体験を生み出し、建築と自然現象の関係をあらためて問いかける。

 会期中には、中谷と美術史家アンヌ=マリー・デュゲによるトークイベントのほか、霧の空間を体験するワークショップやコンサート、映像上映など関連プログラムも多数開催される予定だ。

会期中には、中谷と美術史家アンヌ=マリー・デュゲによるトークイベントなども開催される予定だ Bourse de Commerce – Pinault Collection, Paris, 2026 © Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, agence Pierre-Antoine Gatier. Photo by Florent Michel / 11h45 / Pinault Collection