2026.9.14

strangersが生み出す環境と人との共鳴。境界が溶け合ったその先で見つめるものとは

アーティスト・strangersが、今年6月、スパイラルガーデン(東京)で個展「BLACK AND BLUE」を開催した。ガラスを用いて境界を揺るがす環境をつくり出すその作品のコンセプトや、活動の原点について話を聞いた。

聞き手・構成=山内宏泰 撮影=小澤塁

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 アーティストのstrangersが今年6月、個展「BLACK AND BLUE」を、東京・表参道のスパイラルガーデンで開催した。プロダクトと現代美術の境界で「アンビエント・ファクター(環境因子)」をテーマにガラス作品を制作するstrangersとはいかなるアーティストなのか。

「BLACK AND BLUE」(スパイラルガーデン、東京、2026)の展示風景。右壁面が《Glass Image》( 2026)

透明なガラスと透ける光の調和

 会場となったスパイラルガーデンには、淡い光と溶け合う色をまとった作品が並び、ひとつの「空間」をつくり出している。収納物の輪郭をおぼろげな形にするテーブル、光の質感そのものを表現する照明、それら一つひとつは実用性を帯びたプロダクトでありながら、同時に各作品が共鳴することで空間を演出する。「人が考えていることはつねに流動的かつ曖昧であり、それを直接具体的な形へと変換することは難しいと考えています。まず光や色といった視覚的な要素へと置き換え、そこにガラスや光源といった物質的な要素を重ね合わせることで、徐々に作品としての実体を形成していきます」。

《Glass Table》(2026)。ガラスの青みを帯びた色を光に変換して空間に放つ
《Glass Table》(2026)。表面には細かな凹凸線が入れられ複雑なテクスチャが重なり合う

 その原点については、次のように語る。「多摩美術大学でテキスタイルデザインを専攻するなかで、コム・デ・ギャルソンやイッセイミヤケをはじめとするファッションブランドに影響を受け、いっぽうでSaaS、LLM、UIといった領域に同様の共通点を見出しました。ロンドンのコンサルティング・ファームでキャリアを積んだのち、国内のスタートアップ企業freeeに参画し、プロダクト開発の現場を担いました」。それぞれの仕事は一見すると性質が異なるもののようにも思われるが、明確に重なる部分がある。「作品をつくることは『ストーリー』をつくることだと思います。つくった作品が次の作品につながり、人との関わりをつくっていく。またそれが別のストーリーを生み出し広がっていく」。

《Glass Image》(2026)。外部からの光のみで自ら発光しているかのような反射を見せる

アンビエント・ファクター

 会場に並ぶ作品を改めて見渡すと、ガラスと光源を巧みに用いた繊細な作品が多いことに気づく。細やかな凹凸を刻んだガラスを重ねることで空間の輪郭を曖昧にし、見る側の認識を揺さぶる《Glass Stone》や《Glass Image》(ともに2026)。天板の内部にテクスチャガラスを重ね、引き出しに入ったオブジェクトを透ける風景として捉える《Glass Table》(2026)。そしてLED光源をマジックミラーの内部に組み込み、その光源は物質と光の境界を行き来する《Infinity Lights》(2026)。

《Infinity Lights》(2026)。硬質な存在感が際立つ消灯時
《Infinity Lights》(2026)。内部のガラスのレイヤが浮かび上がる発光時

 strangersの作品を成り立たせている重要な概念として、「アンビエント・ファクター(環境因子)」が挙げられる。「例えばその空間にさりげなく配された観葉植物のように、はっきり認識されているわけではないけれど、そこにあることで空間全体の印象を心地よく変えているものが存在します。人の周辺視野に映り込み、五感に影響を与える要素。普遍的な『美しさ』は、そういったものから生まれるのではないでしょうか」。strangersの作品は、作品そのものが強く主張するのではなく、室内にあらかじめ備わっていた不可欠なもののように空間に溶け込む。そこにあることを意識しないまま過ごしていても、ふと意識を向けた瞬間、見る者の「消えかけた遠い記憶」を呼び覚まし、その人の経験と静かに結びついていく。鑑賞者の記憶と公共の空間をつなぎながら、日常のなかに新たな美しさを発見する契機をもたらしている。

《Infinity Stone》(2026)。皿状のオブジェクトをずらすと重なったレイヤーが豊かな表情を見せる
《Grass Image》(2026)。細かな凹凸が奥行きを創出している

「消えかけた遠い記憶」

 strangersの作品の根底には、彼自身の原点が刻み込まれている。「2006年の冬、ロンドンのトラファルガースクエアで夕空を眺めていたときのことです。そのときに聴いていたのが『strangers』という曲でした。その曲を聴いているときに、『美しい作品をつくりたい』と強く思った記憶が、20年経ったいまも克明に残っています」。そしてstrangersが長年探究してきたのが、様々な色や素材の重なりによって生まれる深い「漆黒」。今回、そこに新たに「青」を加えた。漆黒と鮮やかな青は、彼にとって過去と現在の記憶を象徴する色でもある。ガラスという素材がもたらす透明性や色彩のグラデーションには、過去と現在が交錯する自身の「消えかけた遠い記憶」の風景が深く投影されている。

スパイラルのアイデンティティと言える螺旋のスロープと呼応するようにインストールされた《Infinity Lights》(2026)

 次なる個展もすでに構想中と語る。「次のテーマは『邦楽とガラス』。ガラスによって生み出された透明な空間に、音という目に見えない要素を取り入れることで、新たな領域に踏み込んでみたいと考えています」。

 物質と光が織りなす空間体験を通じ、新たな美の領域を提示してみせたstrangers。その試みは今後も、見る者にさらなる思考を喚起させることだろう。

strangers(高宮修平)、スパイラルにて