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2026.4.15

AI時代のクリエイターはどう自分の表現を守っていけるのか? 福井健策弁護士に聞く、著作権と規約から考えるSNS生存戦略

昨年12月、X(旧Twitter)に搭載された「投稿画像をAI(Grok)で編集できる機能」が波紋を呼んだ。現在、クリエイターのプレゼンテーションの場として欠かせないSNSで、自身の作家性を守りながら発信を続けるにはどうすべきか。利用規約の落とし穴や現行の著作権法の限界、そしてこれからのAIとの向き合い方について、著作権問題の第一人者である弁護士・福井健策に話を聞いた。 ※4月16日24時まで、すべての方に全文お読みいただけます。

聞き手・構成=三澤麦(編集部)

X(旧Twitter)ヘルプセンターに記載の規約

SNSの利便性と「無断改変」の脅威

──昨年12月、X(旧Twitter)に「投稿画像をAI(Grok)で編集できる機能」が追加されました。SNSは広報としていまや欠かせないツールであるいっぽう、無断改変や模倣の脅威というリスクもあります。クリエイターはいま、どんなジレンマに直面していると思われますか。

福井健策(以下、福井) 心理的・実務的な双方のジレンマがあると思います。情報過剰の時代、SNSなしで人々の目に留まることは非常に難しい。いっぽうで、作品を公開すれば改変・流用されてしまう恐れはあり、これはAIでさらに容易になった。「見てもらいたいが、奪われたくはない」という葛藤は当然生じるでしょう。

 今回、Grokの画像編集機能が大きな議論を呼びましたが、こうした事態は15年以上前、SNSが普及し始めた頃から十分に予想されていたともいえます。

 私もかなり早くから、当時のTwitterやYouTube、Facebookなど、主要プラットフォームの利用規約についてコラムを書いています。当時すでに規約には「アップロードされた情報は、プラットフォーム側が(改変を含め)自由に利用できる」という旨の条件がありました。つまり、今回、XがGrokで行っていることは、15年以上も前から規約上に明記されていたことの現実化に過ぎないのです。

「規約」を読まないリスクとユーザーの責任

福井 日本でも2008年には、mixiの同種の規約をめぐる大炎上がありました。しかし、ユーザー側が徐々にこの話題を忘れ、あるいは飽きてしまった結果、ほとんどのプラットフォームには同じ規約が残ったまま今日に至っています。それが生成AIの登場により、爆発的な影響力を持って顕在化したのが現状です。

 この事態を止められた可能性があるのは、ユーザーの声だけでした。とりわけ日本人は、欧米などに比べても規約への関心や、異議を申し立てる運動が少ないと感じます。もちろん声を上げたからといって、何も変わらない可能性はあります。それでも規約を読まずにSNSを利用することは、契約書を確認せずにサインするのと同じですね。

──大前提として規約の確認は必要となりますね。ところで、Grokのような多くの生成AIは、そもそも既存の著作物を学習して開発されています。もしSNS上の投稿やつぶやきがAIで学習されて作風の模倣などが行われた場合、現行の著作権法ではどこまで対象者を守られるのでしょうか。

福井 日本の現行法では、AIによる学習、つまり情報解析自体は原則として自由です。これはEUや米国でも、裁判所が「学習を一切認めない」という判断を下す可能性は低いでしょう。世界共通で学習、つまり情報解析はある程度自由なのです。

 クリエイターも先人の技法を学び、身につけますよね。これまではコンピューターを使わなかっただけで、火の起こし方から絵の描き方まで、人類は「アイデア」を模倣し合って発展してきました。ですから世界的に著作権では、「アイデア」の模倣は自由であるというのが基本原則です。

 ただし、日本の著作権法にも例外があります。ひとつは、「表現」そのものが酷似するような学習・出力は認められないということ。タッチやテイストの模倣を超えて、構図や造形までそっくりなものをAIが出力し、それを利用すれば著作権侵害になりますし、それ以前に表現まで真似るための学習は、学習した時点ですでに侵害です。

「希釈化論」と日米の判断の分かれ目

福井 もうひとつの例外は、学習が「権利者の利益を不当に侵害する場合」です。ではいったいなにが「不当」に当たるのか。この点が激しい論争となっています。

 AIは特定のアーティストの全作品を短時間で学習し、同じ作風の作品を1日に数万点も生成できます。それは一見アイデアしか真似ていないようですが、人間が先人の作風を真似る場合とは規模が違い、同じ作風の作品が市場にあふれれば、オリジナルの価値が埋もれてしまう。これを「希釈化論」と呼びます。私は文化庁の審議会で、それはもとのクリエイターの利益を不当に害する可能性があると指摘しましたが、最終的に文化庁は「作風が似ているだけの出力はOKである以上、そのための学習もOK」という整理をいったん行いました。

 しかし、米国では変化が起きています。その後の2024年、米国著作権局は「市場でオリジナルが埋もれるような作風模倣のための学習は著作権侵害の可能性が高まる」という報告書を出し、連邦地方裁判所もMeta(メタ)を被告とする裁判で同様の判断を示しました。現在は判決が割れている状態ですが、この「希釈化」をめぐる議論こそが、まさに現在の焦点であり、グレーゾーンといえます。

マーケットこそがルールを変える

──こうしたグレーゾーンは、今後解消されていくのでしょうか。

福井 事例が積み重なれば解消へ向かうでしょう。しかし、判決のような「法」の議論は、どうしても現実の技術のスピードに比べれば遅れがちです。法律があまり社会の先回りをするのは危険ですから、それで良いともいえる。この点、時に法や政治よりもスピードがあり、大きな力を持つのはマーケット(市場)とアーキテクチャ(技術)です。SNSの規約に話を戻しましょう。

 例えばSNSでの投稿をAIによって学習や改変されたくないなら、ユーザーは「学習や改変を許すか許さないか、各投稿者が選べる仕様にしてくれ。そういう規約と設計でないなら使わない」と声を上げる。こうしたユーザー多数の声が、プラットフォームにとってもっとも強い抑止力になります。実際、XのGrokも強い批判を受けて一部軌道修正を余儀なくされました(*1)。

 クリエイターやコンテンツ業界に伝えたいのは、「契約を自分ごととして考える」です。契約や規約は、これからのクリエイターの「生存ツール」です。メディアも規約の要点を整理して発信し、ユーザーが「おかしい」と思ったことには当事者として声を上げていく。そうしなければ、ルールはどんどん手の届かない場所へいってしまいます。

──SNSの規約でいうと、具体的にどの項目をチェックすべきでしょうか。

福井 まずは「コンテンツの利用権」に関する条文です。よくあるのが、「投稿コンテンツは、ユーザーに著作権がある」と書きつつ、その後に「ただしプラットフォーム側が自由に利用できる」という一文が隠れているかたちです。さらに、ユーザーが投稿を削除した際に、プラットフォーム側の利用権も消滅するのか、あるいは残り続けるのかはSNSによって異なります。

 次に、「アカウントの停止・削除」や「裁判管轄」です。たいていの規約ではプラットフォームは、ユーザーのアカウントやコンテンツを自由に削除・停止できます。最近もYouTubeのアカウント削除が話題ですが、プラットフォーム側のポリシー変更で、長年積み上げたビュー数やフォロワーが一瞬で消えるリスクを理解しているかどうか。また、Xのように、トラブルの際は米国の法律に従って現地の裁判所で裁判、といった規定があることも知っておくべきです。

クリエイターが自衛するために

──これからの時代、作家性を守りながら発信を続けるにはどうすべきでしょうか。

福井 ここまで規約に関するお話をしましたが、規約自体はすぐに変わるものでもありません。

 規約がすぐに変わらない以上、技術的な自衛も必要です。例えば初歩的な対応でできることとして、コンテンツをアップするウェブサイトの「robots.txt」(*2)に、対象AIによる学習を拒否する“Disallow”の命令を書き込むこと。SNSのプロフィール欄に「AI学習禁止」と書いてもAIは読みませんが、技術的な記述は一定の効果があります。また、拡散力は落ちますが、ID・パスワードで保護された場所に作品を置くのもひとつの手段です。

──最後に万が一、権利を侵害されたと思った場合はどうすればよいでしょうか。いま、個人のクリエイターが取ることのできる現実的な対処法について教えてください。

福井 先述の通り、出力についていえば、現時点では「作風の模倣」だけで訴えるのは困難です。作風を超えて、もし自分の作品と酷似した画像を見つけた場合は、SNS各社の窓口から「著作権侵害」として削除申請を行うのが現実的な対処法です。

 重要なのは、個人であれ会社であれ、自分なりの「AIポリシー」を持つことです。「学習されてもいいからより広く認知されたい」のか、「無断利用は絶対に避けたい」のか。プラットフォームの仕様や規約を正しく理解したうえで、どこまで、どう情報を出すかという「オープン・クローズ戦略」をご自身で決めることが、AIの時代を生きるクリエイターには求められるのでしょう。文化庁が発表している「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(*3)も、自身の指針を作成するうえで参考になるでしょう。

*1──X(旧Twitter)の「投稿画像をAI(Grok)で編集できる機能」を利用した不適切なコンテンツの投稿に関して、同社は2026年1月9日に声明を発表。画像編集機能を「有料プラン(X Premium以上)のユーザー」のみに限定したうえで、悪用時にはアカウントの凍結に加え、法的措置を講じる可能性も明記された。その後も、著作権侵害や公序良俗に反するリクエストを拒否する機能の強化、および年齢確認によるフィルタリング設定の導入など、対策が継続的に進められている。
*2──検索エンジンのクローラー(ボット)に対し、ウェブサイト内のどのページへのアクセスを許可・禁止するかを伝えるテキストファイル。該当するウェブサイトのURLの末尾に「/robots.txt」と入力することでファイルを表示することができる。
*3──文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)。https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/seisaku/r06_02/pdf/94089701_05.pdf