30人が選ぶ2025年の展覧会90:菅原伸也(美術批評家) 

数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は美術批評家・菅原伸也のテキストをお届けする。

文=菅原伸也

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ「Dance Floor as Study Room—したたかにたゆたう」(山口情報芸術センター 2024年11月30日〜2025年3月15日)より、《したたかにたゆたう─前奏曲》(2024) 撮影=編集部
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ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ「Dance Floor as Study Room—したたかにたゆたう」(山口情報芸術センター 2024年11月30日〜2025年3月15日)

展示風景より、《彼女たちの》(2022) 撮影=編集部

 3年ほど前に東京都現代美術館で素晴らしい個展を行ったファン・オルデンボルフによるYCAMでの新たな展覧会。植民地主義、フェミニズム、セクシュアリティ、クィア、政治、アクティビズム、階級といったテーマに取り組む4つの作品のうち、とりわけ《彼女たちの》と《したたかにたゆたう—前奏曲》の2点が印象的であった。都現美と同様に本展でも、作品のみならず展示構成に工夫が凝らされており、クィア文化と結びつきの深い「ダンスフロア」が一定の時間ごとに展開され、作品が停止しダンスミュージックが流れるなかミラーボールの下で観客が踊ることができる時間が設けられていた。

「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館 7月15日~10月26日)

展示風景 撮影=木奥惠三

 1930年代から1970年代まで、日本が関与した戦争や植民地主義に関わる作品や資料から構成された展覧会。この時代設定の仕方が本展のクリティカル・ポイントだろう。これによって、1941年12月8日におけるアメリカ・イギリスへの宣戦布告以前にアジア諸国に対して行われた日本の帝国主義政策や、1945年8月15日の敗戦以後、人々が戦争の記憶にどう向き合ってきたのかが本展において扱われることになる。美術作品以外の様々なメディアを大いに取り上げつつも、絵画、とりわけ戦争記録画に焦点を当てた構成も興味深かった。

「日常のコレオ」(東京都現代美術館 8月23日~11月24日)

展示風景より、ジョナタス・デ・アンドラーデ《抵抗への飢えーカヤポ・メンクラグノチの礎》(2019) 撮影=編集部

 東京都現代美術館の開館30周年を記念し、国内外から約30名/組のアーティストを招いて開催された大規模展。タイトルにある「コレオ」はコレオグラフィー、つまり振り付けを意味し、本展は、我々の日常の振る舞いが規律訓練に従わされていると同時に、そこには必然的に抵抗の試みもまた存在することを示す試みである。先住民、家事労働、アクティビズム、移民、戦争、記憶、階級といったテーマを扱う作品が微妙に重なり合いながら展開されていく本展は、昨今日本においても蔓延するレイシズムや排外主義に対する抵抗の身振りでもあるかのようにも思えた。