表参道の路地裏の一軒家アトリエ「青山二階」。様々な分野のクリエイターが集まるコミュニティの正体とは

東京・表参道の路地裏に佇む、昔ながらのクリーニング店。その2、3階に、若手のクリエイターが集まるアトリエ兼コミュニティスペースがある。「青山二階」と名づけられたこの場所では、7名(取材当時)のクリエイターが活動しており、イラストレーター、モーショングラフィックデザイナー、写真家、スタイリスト、シルクスクリーンアーティスト、スケーター兼アーティストと、その分野も様々である。アトリエ内部を見せてもらいながら、「青山二階」の正体について話を聞いた。

聞き手・構成・撮影=大橋ひな子(編集部)

青山二階のメンバー。左後方から時計回りにHIRO、Shinya Ogiwara、Kosuke Kojima、yaka、TEN、ヤナソー
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古い一軒家アトリエのはじまりは「放課後の教室」

──表参道駅から徒歩3分、南青山という高級住宅街に位置する「青山二階」。1階は昭和の時代から営業を続けているクリーニング店だとうかがいました。この立地にアトリエ兼コミュニティスペースがあることに驚いたのですが、そもそも「青山二階」はどのように誕生したのでしょうか?

ヤナソー 2022年に青山二階ができた頃は、オーナーが3人いました。全員同じ大学出身で、ちょうどコロナ禍だったこともあり、家で黙々とひとりで作業するは大変だという課題をみんなが感じていて。そんなときたまたま知り合った不動産屋から、この物件を安く借りられることになったんです。そこで「放課後の教室」みたいに集まれるような場所をつくろう、と誕生したのが青山二階です。

 もともとこの土地は再開発される予定だったので、2年という期限付きで借りていました。当時からいるメンバーは、僕とyakaちゃんとShinyaくんかな。当時はみんなで集まってパーティーを開いたり、遊び場として使っていました。だんだん人伝いにメンバーも増えたのですが、2年経った契約終了のタイミングでいったん解散ということになりました。ただ、再開発の話が延期したのか、本来解散だったタイミングで契約を更新できることになりました。

Shinya Ogiwara 僕は契約期限の半年前くらいから、この場所を使っていました。契約の更新ができるとわかった当時、引き継ぎたい人がいれば譲るけど、いなければここはもう終わりという状況だったので、なくなるのはもったいないという気持ちから僕がオーナーを引き継ぐことにしました。

 その後また少しずつメンバーも増え、現在は7名(取材当時)がここを利用しています。更新の際も2年契約だったので、次の契約更新は2026年の8月ですが、更新するかどうかはまだ決まっていません(編集部注:インタビュー後、契約の更新が決まり青山二階は継続することになった)。

──最初の2年間(2022〜24)と契約後(2025)の現在では、「青山二階」に変化はあったのでしょうか?

Kosuke Kojima 僕は最初の契約を更新する直前くらいから青山二階に出入りをしていたのですが、最初の頃と現在では、この場所の使われ方が違っているように感じます。最初はグラフィックデザインや写真分野で活動をしていたメンバーがパソコン作業をする場所というイメージでしたが、Shinyaくんが参加したあたりからアトリエとしても使われはじめて。

 僕も当時はシルクスクリーンで服をつくっていたので、インクで汚してもいい場所として使っていました。そのときくらいから「放課後の教室」というより、アトリエのような側面が強くなった気がします。

刺激も安心感もある、かけがえのない遊び場

──みなさんはそれぞれ異なる分野で活動しながらこの場を活用しているとのことですが、具体的にはどのような使い方をしているのでしょうか?

HIRO 僕はいまスタイリストとして活動しています。大学時代にハマった古着をきっかけに、自己表現の手段としてこの分野に足を踏み入れました。スタイリストはただ洋服を選ぶわけではなく、表現したい世界観をつくりあげる仕事だと思っています。

 青山二階がある表参道には、多くのブランドが集まっていて服のリースをしやすいこともあり、借りてきた服を置く物置としても、アトリエとしても使えるようにしています。ここで衣装組を考えたり、撮影準備をしたり。自転車で衣装を返しに行くこともできるので、立地的にも便利です。

 ただ仕事上の利便性だけでなく、個人的にはこの場所には安心を求めにきている側面もあります。肩書きを抜きにして話せる仲間がいるありがたさを、フリーランスだからこそより強く感じます。

Shinya Ogiwara 僕はイラストレーターとして活動をしているのですが、普段はITの会社で働いています。フルリモートで働いているので、10時から18時までここの作業スペースで仕事をして、その後に上の階で絵を描きます。絵具を使うこともあればiPadで描くこともあるので、内容によっては作業場所を変えることもあります。

 みんなと使い方が大きく異なる点は、僕はここで生活をしているということ。ご飯もつくるし、布団を広げて寝ている。僕にとっては文字通りの生活の場でもあります。

3階の作業スペース。絵具を使った制作のときはここを使うことも
2階のキッチン。作品がカウンターの一部になっている
2階の洗面所。歯ブラシとともに置かれた絵筆

yaka 私は普段写真を撮っています。最近は表参道にある会社でも働きはじめました。青山二階では、写真の編集作業や本づくり、展覧会開催のときのステートメントづくりなどを行っています。

 ただ、私にとって青山二階は作業場というより遊び場としての側面のほうが強いです。もともと友達と行ったクラブで偶然知り合った人に誘われて、ふらっと遊びにきたのがこの青山二階でした。ここに集まる人の温かさに魅力を感じて参加を決めたので、私も安心感を求めてここにきています。

屋上の様子。暖かい日はここでピクニックをすることも

Ten 僕はこのなかだと最後に青山二階に入ったメンバーです。いまは大学生なのですが、大岡山にあるアートギャラリー・LOWWのスケートチームにも所属しています。ほかにもスケートボードに関する作品をつくって、東京造形大学内で開催されたグループ展に参加したりと、アーティストとしての活動もはじめています。ただ、ここは制作の場ではなく、コミュニティのひとつとして考えています。

ヤナソー 僕は新卒の頃から、モーショングラフィックという、グラフィックデザインを動かして映像にする仕事をしています。もともとここに参加したときは事務所に所属していたので、休日出勤でやる気がでないときや自主制作するときに作業場として使っていました。2025年の5月末にその事務所を辞めてフリーで働いているので、いまは週2、3回のペースでここを使用しています。カフェでも作業はできるのですが、何時間いても怒られないのはここなので(笑)。

Kosuke Kojima 僕はシルクスクリーンを使って制作をしています。もともとシルクスクリーンアーティストになりたいという夢はありましたが、地元の北海道では会社員として就職しました。しかし挫折を経験し、上京。そのとき初めて仲良くなったのがShinyaくんでした。その縁で青山二階に参加することになり、いまは制作の作業場としても使っています。場所をすごく取るシルクスクリーンの道具を置くには自分の家は狭すぎたので、とても良い環境です。

 作業場として使ううちに、ここに集まる面白い人たちとの交流も自分にとってはかけがいのないものになりました。人から受けるたくさんの刺激が、自分の表現活動にも変化を与えています。ただ、いまは代理店でサラリーマンとしても働いているので、なかなか制作に時間を避けていないのが現状です。みんなとも今日久しぶりに会いました。

2階の作業スペース兼荷物置き場

活動分野が異なるからこそ、フラットに向き合える関係

──メンバーによって青山二階の使い方や抱いている印象が違うことがわかりました。メンバーそれぞれの働き方や価値観が違うなか、どのようなルールによって青山二階は成り立っているのでしょうか?

Shinya Ogiwara 基本的には友達の紹介で集まっているので、入居前に1回面談をして、僕から簡単なルールを説明しています。その内容で問題なければ、契約書に同意してもらい、その日から使ってもらってOKという流れです。

 ルールといっても、ゴミ出しの方法などといった簡易的なものばかりです。鍵はスマートロックを使っているので、メンバーはスマホに登録したアプリを使っていつでも出入りができます。

 1ヶ月1万5千円で貸していて、毎月契約更新というかたちをとっているので、それを更新しなければその場で退居することも可能です。僕はここで生活しているので、みんなよりは多く払っていたりと、少しイレギュラーなかたちではあります。

ヤナソー そもそも利益回収するためのものではないので、ここを維持するための分だけみんなで負担し合っているという感じだよね。

──半年後や1年後ではなく、毎月更新するか退居するかを選べるのですね。皆さんが青山二階の一員でいることを選び続けているのはなぜでしょうか?

Kosuke Kojima 僕は実際ここに5ヶ月くらい来ていませんでした。でも解約するという選択肢がそもそも思いつかないくらい、自分にとってはなくてはならない場所ですね。何も持たずに東京に出てきた僕にとっての最初の拠り所でもあるし、様々な分野で活動している人がひとつの場所に集まって、対等に話しているこの空間に面白さを感じる。作業スペースみたいなところはほかにもたくさんあるけど、お互いがここまで刺激を与えあっているところはそんなにないんじゃないかなと。

Ten 僕も同じようなところに惹かれてここにいます。コミュニティって、基本同じジャンルの人が集まっているような気がしていて、たとえばスケートボードのコミュニティとかグラフィティのコミュニティといったように。でもここは全員違う分野でクリエイティブを発揮しようとしている。そんな場はあまりないように感じます。

ヤナソー 作業場という意味では、僕はMIDORI.soというコワーキングコミュニティスペースも使っています。もともと何か1つに極端に依存するのが本当に苦手なので、コミュニティも複数持っていたい。青山二階という場所がなくなったら寂しくもあるので、居続けているという側面もあります。

yaka 私は写真の専門学校に行きたくて、長野の田舎から上京してきました。18、19歳だった当時は、バイトの忙しさなどから荒んでいました。そんなときに青山二階ではご飯を食べさせてもらったり、話をたくさん聞いてもらったりしていました。いまでは第2の実家のような安心感を感じています。東京にもだいぶ慣れたけど、この地で活動するなら、私にはこの場所が必要だなと。

HIRO 仕事上でも夢を分かちあえる友達はいるのですが、ただそれは「スタイリストのHIRO」として出会った人というイメージで。でもここで出会った人は、肩書きや仕事内容とか関係なく丸裸の僕を受け入れてくれていると感じます。僕が何者であろうとフラットに接してくれる人がいることの大事さをここに来ると感じます。

 しかもみんな違う領域で活動をしているので、評価軸が異なることを体感できるのも嬉しい。同じコミュニティに属していると、そのなかでの正解でしか物事が見られなくなる気がするので。

2階の作業スペースの様子
取材後にチゲ鍋を囲むメンバーたち

クリエイターの心の拠り所として残したいコミュニティのかたち

──共働で何かをつくるコレクティブではなく、それぞれ異なるものをつくる人が集まったコミュニティとして成立している青山二階では、メンバーとのつながりやこの空間で生まれる化学反応を大事にしているように感じました。そんな皆さんが昨年4月に実施した展覧会「青山二階展 高級街のノラ犬たち」は、メンバー全員での初の活動だとうかがいました。この展覧会を通じてお互いに影響を与えあった部分もあるのでしょうか?

Kosuke Kojima 当時メンバーのひとりだったkengoshimizは美大卒だったのですが、彼からはたくさんアドバイスをもらいました。僕は美大に通ったことがないので、自分にはなかった新しい考え方から学ぶことは多くありましたね。ほかのメンバーからも様々な意見をもらって、実際自分の作品も大きく変わりました。

Shinya Ogiwara あのときみんなここに来て徹夜で制作していたので、相互に影響を与えあって変化していったのだと思います。作品の内容以前に、お互いの人間性を理解し合っている部分もあるので、アドバイスも意図を汲みながら出てくるものが多かったのかな。

 ただ、「それぞれの制作に影響を与えあっていた」という点は、僕にとっては正直ポジティブなことだとも言い切れない気がしています。僕がここで生活をしているというのもあるかもしれませんが、もっとひとりで考える時間や向き合う時間もほしいと感じることがありました。周りの声も大事だけど、それを聞きすぎると逆にその人に承認されるための創作になってしまう気もして、自分の芯をぶらさずに持ち続けることが難しいときもありました。みんなでひとつのことをやるにしても、距離感や関わり方については改めて考えたいと思います。

Annex Aoyamaで開催された展覧会「青山二階展 高級街のノラ犬たち」の外観
「青山二階展 高級街のノラ犬たち」で展示された作品(一部)

──コミュニティ全体で活動することに対してもそれぞれ考え方が異なるようですね。現在青山二階としてポッドキャストはじめたりと、新しい動きがあるようにも見受けられます。今後青山二階はどのようなコミュニティになっていくのでしょうか?

Shinya Ogiwara 2025年の1月頃にInstagramアカウントつくり、7月にSpotify上で「青山二階Radio」というポッドキャストをはじめました。ただポッドキャストは、あくまでここで展開される面白い会話をアーカイブとして残しながら、興味を持ってくれる人に届けばいいなと思ってはじめたものです。

HIRO 俺もそのイメージです。青山二階を広く知ってもらうための告知手段ではないというか。青山二階の認知度を上げて仕事を増やしたい、というようなことは考えていないですね。

Kosuke Kojima 僕はむしろ真逆の考えです。青山二階には面白い人がたくさんいて、それぞれがつくっているものにも価値があると思う。実際、東京が嫌になって地元に帰ろうと思っていたけれど、それでもたくさんの刺激をもらえるこの場所があったから、僕は東京に居続けることを選びました。そんな誰かの行動を変えるような面白いものがあるこの場所を、もっと世の中に知ってもらいたいという気持ちです。それが個々の活動につながっていけばより良いなと考えています。

Shinya Ogiwara 今回青山二階に対してみんなの意見をじっくり聞くのは初めてだったので、改めてこの場所の意義について思い出させてもらいました。ただ事実、オーナーの立場としてはそれに勝ってしまうくらい、運営自体が大変であるという課題もあります。持続可能性を探るためにも、生活空間との切り離しや運営体制の変化は必要になってきそう。この場所をなくしたくないという気持ちは僕も同じです。

HIRO 青山二階にいる人はみんな自分の専門領域を持っていて、それぞれのやりたいことに向き合い続けています。各々でなりたい像を持っているからこそ、あえてコレクティブというかたちは取っていない。でもやはりこのカルチャーやコミュニティはとても大事で、こういう場所を求めている人は必ずいると思っています。

Kosuke Kojima いまいるメンバーや場所が固定された「青山二階」が世の中に知られていくというよりは、東京のなかで生まれたひとつのカルチャー、コミュニティのかたちとして、「青山二階」という名前が続いていけばいいなと。それこそ、30年後に自分たちの知らないメンバーが「青山二階」という名前で活動を続けていたら面白い。そうやってクリエイティブ領域に関わりたい人たちの拠り所のひとつとして、このコミュニティが続いていけば嬉しいですね。

 表参道という華やかな街の路地裏に、ひっそりと存在するクリエイターたちのコミュニティ「青山二階」。異なる分野で活動し、個々に目指す先があるからこそ、コレクティブのように共通の目的を持った集団ではなく、ゆるいつながりのうえで成り立つコミュニティというかたちをとる点が特徴的です。彼らの言葉からは、異分野で活動するもの同士だからこそ生まれる刺激や化学反応を大切にし、また悩みや葛藤を肩書き抜きで共有し語り合える場の価値を、強く感じていることが伝わってきました。「青山二階」という場所は、所属するクリエイターたちの今後の活動をどのように変化させていくのでしょうか。何十年後かにも、どのようなかたちであれ「青山二階」というコミュニティ、カルチャーが、そのときを生きるクリエイターたちの心の拠り所として存在し続けていることを願うばかりです。

2階の窓に貼られた「WE ARE 青山二階」