2025.8.2

「色寂 irosabi」(銀座和光・アーツアンドカルチャー)開幕レポート。日常の移ろいを表現する工芸の魅力に触れる

ファッションモデルとしても活躍する森星を中心としたプロジェクト・tefutefu。このtefutefuがキュレーションを務める展覧会「色寂 irosabi」が、銀座和光の地階のアーツアンドカルチャーで開幕した。会期は8月20日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より
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 ファッションモデルとしても活躍する森星を中心に、日本の伝統や技、暮らしの美学を見つめ直し国外へと発信していくプロジェクト・tefutefu。このtefutefuがキュレーションを務める展覧会「色寂 irosabi」が、銀座和光の地階のアーツアンドカルチャーで開幕した。会期は8月20日まで。

 本展は気鋭の作家たちの工芸作品における、素材や技術、そして時間が生み出す「色」に着目した展覧会だ。展覧会名となっている「色寂」とは、モノが人の生活に寄り添ってきた時間に光を当て、時間とともに風合や表情を帯びていく「色」を愛しむ心を表している。

展示風景より、手前が二代田辺竹雲斎《唐物写壷形花篭》と《千集編廣口》

 本展が目指すものについて、森は次のように語った。「全国の伝統的な工芸に携わる人達と会うと、何よりも日常のなかに美を見出していることに気がつかされる。本展でも日々の積み重ねによって変化していく『色』を感じられる作品をそろえた。時間とともに変化する『色』の魅力を感じてもらえれば」。

展示風景より、銀座和光のショーウィンドウ

 会場には伝統的な手仕事や匠の技に新しい視点を交えながら活動を続ける、職人やアーティストの作品が集められた。

 まずは1階のショーウインドウにも展示されている本展のアイコン的存在、漆の技術を用いたタンブラー《SUITŌ》に注目したい。本作はtefutefuが手がけたもので、特徴となっているのはやわらかなフォルムと、漆の下地塗りの職人が仕上げたマットで強度のある質感。光の加減によって木の風合いが残るテクスチャの表情も様々に変化し、まさに「色寂」という本展のコンセプトを象徴する存在といえるだろう。

展示風景より、手前がtefutefu《SUITŌ》

 《SUITŌ》が載っている皿は、伊達冠石の採石と加工を行っている大倉山スタジオの手によるものだ。2000万年前に生成された玄武岩溶岩・火成岩である伊達冠石のもっとも大きな特徴は、表面と内部の表情がまったくことなること。表面は黄土色、錆色などとバリエーションが豊かであるいっぽう、内側は黒灰色となっており、年月とともに鉄錆色が強まっていくという。大倉山スタジオはこのコントラストを活かし、表面の色を部分的に残しながら、複雑な表情の皿をつくり上げた。

展示風景より、手前がtefutefu《SUITŌ》と大倉山スタジオの丸皿

 20世紀の竹工芸の発展を体現した二代田辺竹雲斎の作品も数多く展示されている。伝統技法を巧みに組み合わせながら、精緻であると同時に大胆なフォルムを持つ、豊かなリズムが感じられる作品に注目したい。

展示風景より、二代田辺竹雲斎《大和路 鳳尾竹花籠》

 朝日焼十六世松林豊斎は、400年の歴史を持つ朝日焼の十六代目で、父より陶芸を学び作家活動を始めた。伝統的な技術をベースに、淡青色の月白釉や金彩などを組み合わせ、自然の移ろいをイメージさせる茶器が生み出されている。

展示風景より、右が朝日焼十六世松林豊斎《茶盌月白釉流シ》

 名尾手漉き和紙の七代目として家業を継ぎつつ作家としても活動する谷口弦。本展では和紙を使い「間」そのものを表現した平面作品「mukei」シリーズと、和紙の原料である梶の木の樹皮の繊維を結びつかせて構築した「KAGO」シリーズを展示している。

展示風景より、谷口弦《KAGO(03)》、《KAGO(02)》(ともに2025)

 廣谷ゆかりは高知を拠点とする陶芸家であるが、窯場やスタジオ周辺の植物を用いた作品の発表も行っている。会場では葛や藁、棕櫚を組み合わせた作品が展示されており、そのまま山に返しても不自然ではない、人の痕跡を消しすことに美を見出す作品となっている。

展示風景より、廣谷ゆかり《無題》(2022)

 福村龍太は日月窯の二代目として作陶の道を歩む作家。作為による銀彩と、自然に起こる炭化を組み合わせることに美を見出す福村は、人工的な銀とやわらかな炭化による独特のコントラストが目を引く器をつくり出す。

展示風景より、福村龍太《炭化銀彩片口》《銀彩面取りぐい呑》と《炭化銀彩花入(大)》

 Ryan Schnirelはカリフォルニア州・メンドシーノを拠点に、自ら山に入り土を彫り粘土を成形して焼成する作家だ。自然の循環を重視し、場所のエネルギーを落とし込んだ陶作品を制作。

展示風景より、Ryan Schnirel《Untitled》

 木の楽しさや森の可能性を伝えるブランド「SOMA」の代表としても活動する、木工作家・デザイナーの川合優。500〜1000年以上にわたり、山崩れや火山の噴火などで地中に埋もれていた木「神代」を用いて、座ることができる「木ころ」を制作。地中でゆっくりと変色してきた神代が、空気に触れることで変化した独特の灰色が魅力的だ。

展示風景より、川合優《木ころ》

 さらに会場では、染司よしおか六代目の染織家・吉岡更紗による、草木染の生命力溢れる布が作品に彩りを与えている。ぜひ、会場で各作品の質感を体感して、工芸の新たな魅力に触れてもらいたい。

展示風景より、吉岡更紗による布