デザインはいかに社会・文化の転換点となったのか──MoMAのコレクション展で見るその意義と、権威としての美術館の変化
ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催中の「ピルエット:デザインの転換点」(1月26日〜11月15日)を國上直子がレポート。MoMAのコレクションにおける1930年代から現代までのオブジェクト100点以上が紹介される本展は、鑑賞者にどのような視点をもたらすのか。また、近年見られるMoMAおよびアメリカにおける美術館のキュレーションについても言及する。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されている「ピルエット:デザインの転換点」では、同館のコレクションをメインに、家具や電子機器、シンボルや情報デザインなど、1930年代から現代までのオブジェクト100点以上が紹介されている。展覧会タイトルにある「ピルエット」は、バレエ用語で“その場で回転する動き”を指す。本展は、社会や文化の変動期にデザインが変革の媒介をする、という主旨のもとに各オブジェクトの存在意義を検証するものとなっている。
展示空間は、濃い赤を基調としたドラマチックな印象だ。ドレープなどの仕切りによって、各オブジェクトが際立つ演出がされており、本のページを繰るように鑑賞が進む構成だ。幅広いジャンルのオブジェクトのなかには、広く認知されたものあれば、一部の専門家にしか知られていないものもある。

Photo: Jonathan Dorado
Photo Courtesy of The Museum of Modern Art, New York.
馴染みの製品の意外な起源
展示作中でもっとも年代が古い部類に入るのが、《M&Ms》(1930年代後半)だ。M&Msの創設者のひとりである、フォレスト・マーズは、スペインの内戦時(1936〜39)に同地を訪れた際、砂糖でコーティングされたチョコレートの配給品を、兵士たちが喜んで食べているのを目にした。マーズは、コーティングにより、チョコレートが溶けずに戦地まで届けられることに着目。アメリカに帰国後、ハーシー・チョコレート社の社長であるウィリアム・F・R・マリーとパートナーシップを組み、軍専用の配給品としてM&Msの生産を開始した。後に一般販売が行われ、いまでは、お菓子の定番として世界的な知名度を誇る同製品の、意外な起源が紹介されている。
起業家のサム・ファーバーは、関節炎に悩まされる妻のベッツィーが皮剥き器を使うのに苦労しているのを見て、手の力や大きさ、形に関係なく簡単に使えるキッチン用品の開発に取り組んだ。スマートデザイン社の協力のもと、握りを補助するための、柔らかい合成ゴム製の、ヒレ状の切れ込みが入った楕円形のハンドルを考案し、様々な製品に搭載した。その後ファーバーは、キッチン用品メーカーのOXO社を創業。同社の「グッド・グリップス」シリーズは、「ユニバーサルデザイン」として広く知られるようになった。