2025.12.26

池内喜勝の初の絵画個展が地元・京都で開催。音楽と異なる「もうひとつの創作」のかたちとは

作曲家として知られる池内喜勝による、初の絵画個展「MUSORY ~ 池内喜勝 Experience ~」が11月15日と16日に京都国立博物館 明治古都館で開催した。

展示風景より
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  日本アカデミー賞受賞映画の劇中歌など、数多くの作品を手がけてきた作曲家として知られる池内喜勝による、初となる絵画個展「MUSORY ~ 池内喜勝 Experience ~」が、11月15日と16日に京都国立博物館 明治古都館で開催された。

京都国立博物館 明治古都館

 池内は幼少時代、正月は家族で集まって画家の祖父とともに絵を描いていた。これは毎年の恒例行事で、祖父が出したお題を好きに表現する遊びだったという。今期の展示のきっかけは、このようにして自分が生まれ育ったこの町で、自身の作品を見てもらいたい、という思いからだ。幼少期から慣れ親しんできた風景や空気、人との出会い。その土地に流れる時間が自身の作品の奥底に息づいていると感じ、最初に影響を受けた場所へ表現を「還したい」という心境が、今回の個展へとつながった。

 また、京都の社会問題のひとつである、伝統工芸品の衰退や店舗の廃業も本展の念頭にはあったという。池内の祖母が20年近く伝統工芸の店をやっていたこともあり、近くでその現実を見ていた身として、その問題に向き合うことも今回の個展のテーマになっている。長い歴史で受け継がれてきた技法や素材が語りかけてくる歴史を鑑賞者に伝えるため、廃材を使った作品作りやオリジナルの着物なども個展に取り入れた。

池内喜勝

 会場では、2024年から25年にかけて制作されたアクリル・キャンバス作品7点と、ドローイング6点を展示。出品作には《無題》(2024、2025)、《手に残る光》(2024)、《ベルム − VELM》(2025)、《欲の形而》(2025)などが並び、いずれの作品も内面に沈潜するような色彩と構造が特徴だ。

展示風景より

 展示の主題となっていたのは「調和を求めぬ眼差しが照らす、内なる真実」という言葉。外部との調和ではなく、内側に沈む感覚そのものを掘り下げる姿勢が、今回の制作全体を貫いている。

展示風景より

 会期中には、西脇隆俊京都府知事とのトークイベントも実施。池内は楽曲と絵画の制作の違いについて、「音楽は『時間の川』に身を投げ出す行為であり、油絵は『時間を止めて固定する』感覚」と語り、同じ創作でもまったく異なる脳の使い方をしていることを明かした。また、京都の文化土壌については、「歴史や伝統が若い表現の『光や水』になる」と述べ、古い建築や空間が創作の実験場として開かれていく未来への期待を示した。

池内喜勝と西脇隆俊京都府知事

 さらに、バンド・Novelbrightのボーカルである竹中雄大とのトークイベントも実現。竹中が池内の新しいデモ音源を2時間のフライト中ずっと聴いていたというエピソードや、絵画作品について「音楽だけではなく、絵画の世界観も好みすぎてファンになった」と語る場面も印象的だった。ふたりは海外旅行を通して、土地の文化や空気を感じながら制作を行うこともあるという。

池内喜勝と竹中雄大

 会場では、大型オブジェの設えのなかで来場者が撮影を楽しむ光景が広がり、音楽展示コーナーでは過去楽曲の未公開音源の視聴も可能になっている。音楽とは異なる静かな層から立ち上がってきた池内喜勝の絵画表現。それは、流れる時間ではなく、沈黙の中に定着する「もうひとつの創作」の現在地を示すものだったと言えそうだ。

展示風景より