2025.9.25

建築家・磯崎新の没後、国内初となる大規模回顧展「磯崎新:群島としての建築」。11月1日より水戸芸術館で開催

建築家・磯崎新の没後、国内初となる大規模回顧展「磯崎新:群島としての建築」が、茨城・水戸の水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催される。会期は11月1日 ~ 2026年1月25日。

磯崎新 水戸芸術館 1988 シルクスクリーン・プリント
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 2022年末に逝去した建築家・磯崎新の没後、国内初となる大規模回顧展「磯崎新:群島としての建築」が、茨城・水戸の水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催される。会期は11月1日 ~ 2026年1月25日。

 水戸芸術館の設計者でもある磯崎は、20世紀を代表する建築家のひとりと知られ、2019 年に建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞した。建築プロジェクトや都市計画にとどまらず、著作活動、芸術家や知識人とのコラボレーション、さらにはキュレトリアル・ワークを通じ、60年以上にわたり思想、美術、文化論や批評分野においても卓越した地位を確立している。

孵化過程 1962 「Arata Isozaki: PROCESS」(2011)展示風景 Courtesy of MISA SHIN GALLERY, Tokyo, Photo: Keizo Kioku
東京都新都庁舎計画設計競技 1985-86 1986 シルクスクリーン 80✕120cm ©Estate of Arata Isozaki

 「群島としての建築」と題した本展では、こうした単一の領域にとどまらない磯崎の活動を「群島」の様に構成。「都市」「建築」「建築物」「フラックス・ストラクチャー」「テンタティブ・フォーム」「建築外(美術)」をキーワードに、建築模型、図面、スケッチ、インスタレーション、映像、版画、水彩画などの様々なメディアを通じて、磯崎の軌跡を辿るとともに、自身が設計した水戸芸術館を舞台に、建築の枠を超えた磯崎の活動を俯瞰的に紹介するものとなる。

 国内外の代表作の紹介としては、磯崎が東京大学丹下健三研究室所属時に関わった、アンビルトの都市計画である《東京計画1960》(1961)に始まり、アーバンデザイナーとして提案した《空中都市―新宿計画》(1960-61)、《空中都市―渋谷計画》(1960-62)、《コンピューター・エイディッド・シティ》(1972)などを紹介。また、《大分医師会館》(1959-60)や《福岡相互銀行本店》(1968-71)、《旧大分県立図書館(現・アートプラザ)(1962-6)などの初期作品から、《群馬県立近代美術館》(1971-74)、《北九州市立美術館》(1972-74)、《つくばセンタービル》(1979-83)、《なら100年会館》(1992-98)、《ラ・コルーニャ人間科学館》(1993-95)、《カタール国立コンベンションセンター》(2004-11)など国内外の代表作を紹介する。

東京都新都庁舎計画設計競技 1985-86 1986 シルクスクリーン 80✕120cm ©Estate of Arata Isozaki
つくばセンタービル 1983年竣工 竣工写真 1983 ©Kochi Prefecture, Ishimoto Yasuhiro Photo Center, Photo: Yasuhiro Ishimoto
カタール国立コンベンションセンター 2011年竣工 竣工写真 2011 Photo: Hisao Suzuki

 磯崎は建築のキュレーションともいえる仕事を通じ、ひとりの建築家という枠を超えて建築のプロジェクトを構想した。本展では、多くの建築家を起用した《くまもとアートポリス》(1988-98)、国際的に活躍する国内外の建築家6 名に集合住宅を競作させた《ネクサスワールド》(福岡、1989-91)のコミッショナーといったプロジェクトを通じて、磯崎の建築界における功績も紹介される。

 磯崎の功績を考えるうえでは、戦後日本美術や現代美術との関わりも重要となる。《奈義町現代美術館》(岡山、1994)、《ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ》(2011-13、アニッシュ・カプーアと協働)のようなアーティストとコラボレーションした建築プロジェクトや、パリ装飾美術館で開催された「間展」(1978-79、79に米クーパー・ヒューイット美術館巡回後、海外4都市で開催)のキュレーションなども紹介。

群馬県立近代美術館 1974年竣工 1983 シルクスクリーン 90✕63cm ©Estate of Arata Isozaki
奈義町現代美術館 1994年竣工、1994 水彩 18✕17.1cm ©Estate of Arata Isozaki

 さらに、磯崎は建築模型や図面以外の様々なメディアで自身の作品を発表したことでも知られている。本展では群馬県立近代美術館などの70年代の主要建築をシルクスクリーンとして遺した「還元」シリーズ(1983)、そして80年代後半から90年代前半に手がけた建築をモチーフにした24点の水彩画(1994)を発表。また、磯崎は欧州、アメリカ、アジアをはじめとする世界の旅先で古典建築やモダニズム建築等を訪れ、その姿を70冊以上にもおよぶスケッチブックも残した。これらスケッチブックには旅の記録だけではなく当時、手掛けていた建築や展覧会そして執筆活動などの構想も残されています。会場では磯崎のインスピレーションの源泉となった膨大な数のスケッチからその一部が紹介される。

スケッチ・ブックより パルテノン神殿、アクロポリス 2000年12月 水彩 14✕19.5✕3cm ©Estate of Arata Isozaki

 そして、本展の開催地である1990年3月に開館した水戸芸術館も重点的に紹介する。同館建築を画一的な近代建築を批判し、建築の根源的価値を再考するポストモダン建築の理念と実践を結実させた磯崎の代表作としたうえで、水戸芸術館を、出品作品のひとつとして「展示」。あわせて刊行する『水戸芸術館ガイドブック』(監修・執筆:五十嵐太郎/デザイン:イスナデザイン)を手に館内外をめぐり、磯崎建築を体験できる。

水戸芸術館 1990年竣工 「Arata Isozaki: In Formation」(2023)展示風景 Courtesy of Power Station of Art, Shanghai