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2026.4.11

カプセルトイ、精巧と独創を追求したその現在地。日本ガチャガチャ協会会長・小野尾勝彦に聞く

近年、大人を中心に絶大な人気を集めている「カプセルトイ」。かつて子供向けの玩具として親しまれたその存在は、いまや世代を問わず多くの人々を惹きつけるプロダクトへと進化を遂げている。カプセルトイはなぜこれほどまでに目覚ましい進化を遂げたのか。その歩んできた過程と現在地について、一般社団法人日本ガチャガチャ協会会長の小野尾勝彦に話を聞いた。※4月11日24時まで、すべての方に全文お読みいただけます。

聞き手・構成=大橋ひな子(編集部) 撮影=手塚なつめ

取材中に登場したカプセルトイの数々
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江戸の「根付」から続く日本の「ものづくり」文化

──多くの人が幼い頃に親しんでいた「ガチャガチャ」。正式名称は「カプセルトイ」と呼称されますが、現在大人の女性を中心に、大きなブームが起こっているそうですね。市場規模は2024年時点で約1400億円、前年比120パーセント(*1)という驚異の成長を続けているとか。ここまで人気が爆発しているカプセルトイに、いったい何が起きているのでしょうか。まずはその背景を知るべく、カプセルトイの歴史について教えてください。

小野尾勝彦(以下、小野尾) カプセルトイのルーツは1930年代のアメリカにあります。当時はガムやピーナッツと一緒にマシンに入れられた玩具がそのままの状態で売られており、衛生面や故障の問題から、50年代にようやく現在のようなカプセルが登場しました 。

 興味深いのは、当時アメリカで人気だった玩具の製造元が日本だったという点です。1930年頃、日本はセルロイド製の小さな人形を盛んに輸出していましたが、現地の職人たちは、自分たちのつくったものがアメリカのマシンに入れられているとは知らずに製造していました。

1930年代のカプセルトイの写真。当時はまだカプセルに入れられていなかった

 戦時中に輸出入が途絶えると、アメリカ国内ではサミュエル・エピーが玩具製造を牽引するようになります。そのエピーから商品を買い付けていたL.O.ハードマンによって、日本にカプセルトイビジネスが持ち込まれました。1965年の「ペニイ商会」設立から日本独自の進化が始まります。製造拠点が海外へ移行した後も、企画・プロデュースを担い続けたのは日本でした。

 実際に当時つくられていたものを見るとわかるのですが、100年近く前のものとは思えないほど、精巧なつくりをしています。こうした「小さなものを精巧につくる」技術の源流は、江戸時代の「根付(ねつけ)」文化にあると考えています。印籠の滑り止めとしてつくられた数センチのカエルや動物の彫刻など、細部まで徹底的につくり込む職人気質こそが、いまのカプセルトイビジネスを支える日本の大きな強みとなっているのです 。

1930年代当時のカプセルトイ
一般社団法人日本ガチャガチャ協会会長・小野尾勝彦

*1── 一般社団法人日本カプセルトイ協会の「2024年度カプセルトイ市場動向調査結果報告」による。

小さなカプセルのなかで遂げた進化の軌跡

──「小さいものを精巧につくる」というものづくりへのこだわりは、カプセルトイの進化を語るうえで重要な要素になりそうですね。日本でカプセルトイビジネスが開始された1965年から現在にかけて、カプセルトイのブームはどのように推移してきたのでしょうか。

小野尾 最初の大きな波、いわゆる「第一次ブーム」が訪れたのは1983年のことです。1回100円という価格設定で登場した「キン肉マン消しゴム(キンケシ)」が爆発的なヒットを記録。それまで安価なおまけという立ち位置だったものが、子供たちが熱狂的に集める「コレクション文化」へと昇華したのがこの時期です。

 その後、1995年頃には1回200円が主流となる「第二次ブーム」が到来。ここで「HGシリーズ ウルトラマン」などのヒット作が登場し、単色だったフィギュアに彩色が施されるようになりました。造形の精度も飛躍的に向上し、大人が鑑賞を楽しむミニチュアフィギュアとしての地位を築きはじめました。

 さらに2000年代に入ると、よりアート性の高い試みが始まります。2002年にソニー・クリエイティブプロダクツが開始した「アート・カプセル・トイ・プロジェクト」がその先駆けです。「TIME CAPSULE(タイムカプセル)」というシリーズ名で、クリエイター作品を500円という当時としては異例の高単価で展開。これはキャラクターグッズの枠を超えて、作家の個性をカプセルに封じ込めるという、いまの「クリエイター作品」や「高単価路線」の礎となる試みでした。このプロジェクトはのちに、カプセルトイメーカーのユージン(現タカラトミーアーツ)へと引き継がれます。

「コップのフチ子」シリーズより「ぶら下がりフチ子」 ©タナカカツキ/KITAN CLUB

 この流れの結実とも言えるのが、2012年に「第三次ブーム」を巻き起こした『コップのフチ子』です。漫画家・タナカカツキさんを生みの親とし、元ユージンの古屋大貴さんが立ち上げたキタンクラブによって制作されたこの作品は、SNSでの拡散の影響もあり、30万個で大ヒットと言われる業界で累計2000万個を突破するという異例の記録を打ち立てました。この一件は、従来のキャラクターに依存しない、日常のなかの「小さなアート」として評価され、この成功により、独自の発想や造形で勝負するメーカーやクリエイターが急増しました。

 そして2020年頃からは「第四次ブーム」の真っ只中にあります。1回300〜500円が一般的になり、大人の女性をターゲットにした専門店が全国に拡大。現在では精巧なものづくりはもちろん、実用性や独創的なアイデアが盛り込まれ、カプセルという限られた小さな空間のなかで、いまもなお進化を続けているんです。

精巧なものづくり×独創的なアイデアが光るカプセルトイのいま

──独自の進化を遂げたカプセルトイ。その進化の方向性も多様ななかで、ぜひ小野尾さんが気になっているものやおすすめのものがあればご紹介をお願いします。例えば、精巧なつくりを極めたといえるカプセルトイはありますか?

小野尾 精巧なつくりといえば、ターリン・インターナショナルから発売されている「ネットワーク機器メーカー監修 手のひらネットワーク機器」シリーズはすごい。とてもニッチな商品ですが、好きな人にはたまらないこだわりが詰め込まれています。実際の大きさの12分の1サイズになっている「極小お弁当」も細かいですよね。こちらは4種類あるおかずを好きに詰め替えることができます。

IT インフラ機器メーカーが監修し、機器やサーバーラック、小物などをミニチュアで再現したカプセルトイ「手のひらネットワーク機器」シリーズのVer.3.1。4種類すべてが出るとラックを組み上げることができる。付属のLANケーブルを繋げられる点もポイント
実物の12分の1スケールのミニチュア「極小お弁当」。付属のピンセットを使い、自分でおかずパーツを組み替えることもできる

──シリーズ内の複数の種類を手に入れることで楽しみ方が広がる工夫も感じられます。それにしてもかなりニッチな商品にも人気が集まっているのですね。

小野尾 ニッチという点で言えば、ナンのかたちをしたサドルカバーや、ねぎを入れる専用の袋「ねぎ袋」なんていう商品もあります。「いったい誰が使うんだ」というような突飛なアイデア自体に魅力を感じられるのも、カプセルトイの特徴のひとつです。

 また、私がとくに気に入っているのは、「ぴちぴち鮮魚」です。鮮魚のフィギュアだけでもいいのに、あえて鮮魚を手で動かせるギミックを付けている。そんな遊び心のある「ワンギミック」があることで、フィギュア以上の体験ができる点も、いまのカプセルトイの面白さのひとつだと思います。

お造りのミニチュア「ぴちぴち鮮魚」。横についているギアを左右に動かすと魚がまるでぴちぴち動いているかのように見えるギミック付き

──メーカー独自のアイデアが光りますね。先ほど話に出てきた「手のひら電子機器」などは企業とのコラボ商品です。ほかにも、スタンドストーンズからは大手時計メーカーのカシオ計算機とのコラボ商品「CASIO ウィッチリングコレクション」や、水産加工用機械で数々の実績を誇る鍵本鐵工とのコラボ商品「天日いか乾燥機」、いきもんからは大手缶詰製造会社のマルハニチロとアートユニット・現代美術二等兵とのコラボ商品「缶詰リングコレクション」を発売しています。このように、カプセルトイにおけるコラボ先も多様化しているのでしょうか?

小野尾 様々な企業とのコラボ商品も増えるなか、最近では作家さんとのコラボ商品も非常に増えてきました。とくに昨年あたりからは女性人気も高まっているようです。街中でも鞄につけている様子を頻繁に見かけます。

カシオ計算機の完全監修によるリング「CASIO ウィッチリングコレクション」。デジタル表示部分、文字盤、ガラスの3層構造になっている点もポイント
水産加工用機械メーカー・鍵本鐵工とのコラボ商品「天日いか乾燥機」。実際に使われているいか乾燥機の回転ギミックも再現。対馬名産の魚類シートも付属
大手缶詰製造会社のマルハニチロとアートユニット・現代美術二等兵とのコラボ商品「缶詰リングコレクション」。「あけぼのさけ」「金線べにずわいがに」など、実際にある缶詰商品を再現(すでに完売しているため現在は販売終了)
イラストレーター・HONGAMA がつくる陶器作品のミニチュアフィギュア「HONGAMA miniature collection」。個性的なキャラクターたちが手のひらサイズで登場
ぬいぐるみ作家・尾崎歩美が展開するぬいぐるみ・雑貨ブランド「mojojojo」のフィギュアマスコット。全種類フロッキー仕様でつくられており手触りも抜群

 コラボによる進化のほかに、実用性を持たせたものが出てきたという点も、カプセルトイの進化のひとつです。トイズスピリッツは、実際に氷を削ることができるミニチュアかき氷器や、栓を開けると水が出てくるミニチュアウォーターサーバーをつくっています。また録音・再生ができるミニチュアのガラケー(ガラパゴス携帯電話)なんていう商品も。「実際に使える」という特別感に大きな魅力を感じますね。

ハンドルを回すと本当に氷が削れるミニチュアかき氷器シリーズ「本当に作れる!レトロかき氷器&シロップサーバー〜夜空の華〜」。ミニチュアサイズでも氷が削れるよう、刃の角度の調整など細かな試行錯誤で開発が実現。食品衛生法試験に合格しているため削ったかき氷は実際に食べることが可能
ミニチュアサイズのウォーターサーバー「本当に使える!?ミニチュアウォーターサーバー」。タンクに水を入れ、レバーを捻ると小さなコップに水を注ぐことが可能。食品衛生法試験に合格しているので、出てきた水は飲むことができる
録音再生ができる懐かしいガラケーのミニチュア商品「本当に録音再生!なつかしのガラケーマスコット〜+プラス」。電話の「出る」ボタンで録音開始(再び押すと録音終了)、電話の「切る」 ボタンで録音した音声を再生できる。画面中のシートを好きな写真などに差し替えることで、待受画面を変えることが可能。デコシール付き

 カプセルトイは、「玩具」ではなく「雑貨」、あるいは一種の「作品」だといってもよいと考えています。驚くほど精巧かつ、つくり手独自のアイデアが詰め込まれている。そしてこれらが300〜500円ほどの価格で手に入るという点もあわせて、「カプセルのなかで進化した」日本のものづくりの結晶だと言えるでしょう。

小野尾さんお気に入りのカプセルトイ「旭ハウス工業オリジナル 仮設トイレコレクション」。24分の1スケールで仮設トイレを再現。4種類のシリーズ内には洋式トイレバージョンもある

カプセルトイの未来

──先日、六本木ミュージアムで開催された「ガチャガチャ展 in 六本木」(2月6日~3月2日)では、カプセルトイの未来を感じさせるものも多く紹介されていました。カプセルそのものを商品の一部にしたキタンクラブの「おにぎりん具」シリーズや、プラスチックごみとなるカプセルを環境に配慮した紙でつくったケーツーステーションの「ecoぽん」など、中身ではなくカプセル自体を進化させた例もそのひとつです。また自動販売機に専用ハンドルをつけたガチャガチャ自動販売機「ガチャえもん」は、機械そのものを進化させる取り組みかと思います。

小野尾 「ガチャえもん」は、カプセルトイ特有の「ハンドルを回す」というワクワクする購入体験価値と、最新の自動販売機技術を融合させた製品です。いまのカプセルトイのマシンスタイルには、じつは物理的な限界があります。カプセルサイズは9センチまで、金額も通常は500円までと決まっています。カプセルがあるからこそ遂げた進化もありますが、さらにカプセルトイの進化が多様化する兆しには期待しています。

 従来のサイズや金額のハードルを超えることができる「ガチャえもん」は、業界にとっても大きな変化の一歩となるはずです。自動販売機ですから、カプセルのサイズにも金額にも制限はありません。さらに言うと、カプセルに入れる必要もなくなります。何が出てくるかわからないワクワク感と、ハンドルを回すアナログ感を残しながら、その商品は多様化していきそうです。実際いま書店から、本のカプセルトイをやりたいという相談もきています。また冷蔵機能もつけられるので、アイスクリームや駅弁といった食べ物などを対象にしてもいいですね。

カプセルレスのおにぎり型ケースのなかに、おにぎりの具材をモチーフにした指輪が入った「おにぎりん具」。累計出荷数260万個を超える大ヒット商品となり、現在までに30種類のおにぎりが発売されている
プラスチックごみとなるカプセルを環境に配慮した紙でつくった「ecoぽん」

 歴史を紐解くと、カプセルトイは日本のものづくり文化が息づく大事なカルチャーのひとつであることがわかります。今後はある歴史文化博物館での展覧会も予定しており、その文化や歴史をアーカイブしていきたいと考えています。同時に、さらなる進化を遂げていくカプセルトイのいまにも着目してもらえると嬉しいです。

ガチャガチャ自動販売機「ガチャえもん」