2025.4.18

資本主義と時間の関係を見つめる。京都の瑞雲庵で「スピードの物語」展が開催へ

京都の瑞雲庵にて、「スピードの物語」展が4月18日〜5月18日の会期で開催される。時間、労働、精神的健康、そして資本主義がもたらす影響をテーマにした作品が展示され、時間の遅延や回復の可能性を探る。

「スピードの物語」展のDesign: Tomohiko Kuniyoshi
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 公益財団法人西枝財団の「瑞雲庵における若手創造者支援事業」の一環として、「スピードの物語」展が京都の瑞雲庵で開催される。会期は4月18日〜5月18日。

 西枝財団は、次世代の芸術・文化を担う若者の育成を目的に毎年2名の若手キュレーターを公募し、彼らによる展覧会の企画・運営をサポートしている。本展は、2025年度に採択されたプロジェクトのひとつだ。

荒木悠 A lizard and the Spider 2021
Image courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

 本展のコンセプトは、1964年にメディア理論家マーシャル・マクルーハンが著書『メディア論』で触れた「時計」に関する議論に着想を得ている。マクルーハンは、時間を分割する時計がどのように人間の経験からリズムを切り離し、機械的に支配するものとなったかを論じた。その後、資本主義社会における時間の管理がもたらす労働のリズムと、それに伴うストレスが、精神的な問題や肉体的な疾患を引き起こす現象についても警鐘を鳴らしている。今日、こうした問題はますます深刻化し、経済の仕組みと医薬品産業との関係が利益を生むいっぽうで、社会全体に悪影響を及ぼしている。本展では、アーティストたちが自身の実践を通じて、こうした現象と向き合い、時間の遅延や回復の可能性を示唆する作品を展示する。

シネマ58 東京1958 1958(スチール)

 展覧会をキュレーションするのは、メディア・アート専門の美術史家であるカジェタノ・リモルテだ。リモルテは、アート、身体性、テクノロジーの関係性に焦点を当て、異文化間を越境する視点から、疎外感や孤独、死といったテーマを探求してきた。

原田裕規 One Million Seeings 2019
Image courtesy of the artist

 参加作家は、荒木悠、シネマ58、原田裕規、川田喜久治、カワニシユウキ、小津安二郎、ユ・ソラ高山明、瀧健太郎、トモトシ、津田道子、八島良子など、現代アートシーンで注目されている若手からベテランまで幅広いメンバーが揃う。

川田喜久治 The Map 1965 Reprint edition (Akio Nagasawa Publishing, 2014)
Image courtesy of PGI

 荒木悠は、日英の通訳業を経て誤訳に着目した作品を制作しており、シネマ58は1957年から59年にかけて活動した実験映画グループとして知られている。原田裕規は、テクノロジーやパフォーマンスを通じて社会や個人の本性を表現し、川田喜久治は、戦後日本の記憶と社会的背景を反映させた作品で評価されている。

小津安二郎 東京物語 1953(スチール)
ユ・ソラ 記録された⽇々: もずく、たまご 2023
Image courtesy of the artist

 また、小津安二郎の映画作品や、ユ・ソラの刺繍を用いたインスタレーション、高山明の都市空間での身体的アプローチ、瀧健太郎の廃材を使ったインスタレーションなど、各作家は独自の手法で現代社会の問題や人間の内面を表現している。

高山明 バベル – 都市とその塔 2016
「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(森美術館、東京、2016)の展示風景より Photo by Nagare Satoshi. Image courtesy of Mori Art Museum, Tokyo
瀧健太郎 Living in the Box 2007-22
Image courtesy of the artist

 そのほかにも、カワニシユウキは記憶と物質の関係に着目した作品を、トモトシは都市空間の変容をテーマにした映像作品を展開しており、津田道子は視覚と動作によって不可視の存在を示唆する作品を、八島良子は戦争や被爆体験を元にした強いメッセージ性を持つ作品を発表している。

カワニシユウキ Untitled: Log of the Day 2022-25
Image courtesy of the artist
トモトシ If I Move Me 2020 Image courtesy of the artist

 本展は、参加作家たちが現代社会の問題とどのように向き合い、表現しているのかを示すとともに、アートが持つ回復の力や対話の可能性を強調する場である。アートと社会が交わる新たな視点を提供し、観客に深い思索を促すことだろう。

津田道子 So Far, Not Far 2023 Image courtesy of the artist and TARO NASU © Yuji Oku
八島良子 Memento Momo 2019-21
「アートベース百島」(広島、2023)の展示風景より Image courtesy of the artist