2025.8.24

難民の姿をとらえ、伝えるということ。「UNHCR×瀬戸内国際芸術祭」ホンマタカシ インタビュー

「瀬戸内国際芸術祭2025」で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とのコラボレーションによる作品「SONGS—ものが語る難民の声」を発表した写真家のホンマタカシ。同芸術祭の総合ディレクターである北川フラムがモデレーターを務めた特別トークイベントで、作家/詩人の池澤夏樹との対談が行われたのち、ホンマに対してインタビューを実施した。

聞き手・文=中島良平

ホンマタカシ ©︎UNHCR Japan
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ホンマタカシ「SONGS—ものが語る難民の声」、瀬戸芸で

 現在世界では、1億2千万人を超える人々が紛争や迫害によって故郷を追われ、各地で避難生活を送っている。今年開催されている「瀬戸内国際芸術祭2025」(以下、瀬戸芸。春会期:4月18日〜5月25日、夏会期:8月1日〜31日、秋会期:10月3日〜11月9日)では、国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)とのコラボレーション企画として、日本・バングラデシュ・コロンビアの3ヶ国で暮らす難民や国内避難民の住まいを写真家のホンマタカシが訪問し、故郷を追われた人々の姿と、彼らが避難生活においても手放すことのなかった「大切なもの」を写したシリーズ作品「SONGS—ものが語る難民の声」を発表した。

「SONGS—ものが語る難民の声」の会場である高松港の風景
撮影=編集部
ホンマタカシ「SONGSーものが語る難民の声」展示風景より
撮影=Shintaro Miyawaki 写真提供=瀬戸内国際芸術祭実行委員会

 日本では、シリアやウクライナ、ミャンマーなど出身の人々を自宅で撮影。バングラデシュではコックスバザールに位置する世界最大規模の難民キャンプを、コロンビアでは郊外の個別の住居を訪れ、インタビューと撮影を行った。

 そのホンマタカシと、様々な難民の姿を多様な形式の20章で描き出した作品集『ノイエ・ハイマート』を2024年に発表した池澤夏樹を迎え、6月20日の「世界難民の日」にあわせて、特別トークイベントが開催された。タイトルは、「ホンマタカシと池澤夏樹が語る難民の旅路、新しい故郷」だ。

特別トークイベント「ホンマタカシと池澤夏樹が語る難民の旅路、新しい故郷」の様子より
特別トークイベント「ホンマタカシと池澤夏樹が語る難民の旅路、新しい故郷」の様子より、ホンマタカシ

 池澤は、1990年代半ばにタイとカンボジアの国境に位置する難民キャンプを初めて訪れた。その様子に衝撃を受けたのと同時に、日本がいかに難民に対して冷酷で、国民全体が無関心であるかという事実を突きつけられ、情けない気持ちになったという。そしてこの春、「瀬戸内国際芸術祭2025」を訪れ、ホンマタカシの展示を見たときのことを次のように話す。

「20〜30人分の写真と、被写体となった方から聞いた話が一緒に展示されていて、写真を見て、話を読んで、と鑑賞しながら展示を1周しました。しかし、全然見足りない気がして、もう1周しました。それから島を訪れ、次の日に高松港に戻ってきてからもう一度見に行きました。知らない人たちなんだけど、懐かしいと感じたんです。自分のなかに湧いてくる思いが何なのかと考えると、人というのはこういう顔をしていて、こういうふうにひとつのものを大事にする。これが人間なんだと、強く迫ってくるものを感じたのです。だから何遍でも見てしまう。

 新聞でもテレビでも、SNSでも、ニュースというのは即時に抽象化されていきます。難民問題であれば、まずその人数が伝えられるように。しかし、その数を知ることよりも、それぞれがひとりひとりの個人であることが忘れられてはならない。(難民の人数や移動を伝える抽象化されたニュースから、難民それぞれは個別の人間であるという事実へと)頭を切り替えて戻すために、ホンマさんの展示はとても力があるものだと思いました」。

特別トークイベント「ホンマタカシと池澤夏樹が語る難民の旅路、新しい故郷」の様子より、池澤夏樹
特別トークイベント「ホンマタカシと池澤夏樹が語る難民の旅路、新しい故郷」の様子より

 トーク終了後のホンマタカシへのインタビューは、この池澤の感想と接続するかたちで開始した。